グローバリゼーションと健康
池住義憲
「グローバル化」とは?
カール・ルイス選手と幼稚園児が同じスタートラインに立って100メートル競走をする。想像してみてください。どちらが有利か。どちらが勝か。結果は明らかだ。
現在急速に進行している自由市場経済の「グローバル化」はまさにこれと同じ状況だ。国民総生産(GNP)が442億ドルのバングラデシュと7兆9000億ドル(バングラデシュの約180倍)の米国が“対等”な条件で経済活動を競い合う。
グローバル化とは、モノ(商品)カネ(投資 および金融)ヒト(労働力)が国境を越えて自由に行き来する動きのことだ。貿易自由化の障壁となるものを撤廃し、すべてを国際市場に委ねようという動きだ。
「グローバル化」が途上国の人々にどんな影響を及ぼしているか?
経済のグローバル化によって今、何が起こっ ているのか。一言でいえば、「貧富の差が拡大している」ということだ。弱肉強食の経済システムだから経済力が弱い国が“負ける”のは当然だ。世界の富はますますごく一部の富豪および先進国に集中、集積されている。
経済的に貧しい途上国に対してIMF(国際 通貨基金)・WB(世界銀行)は条件付きで“救済措置”として新たな融資を行っている。しかしこれがまた大きな問題だ。つまりその条件とは、@国営企業を民営化すること、A外国企業が進出および投資しやすい体制をつくること、B国内消費物の生産より輸出用換金作物を奨励すること、C労働者の賃金を凍結し物価は規制せず市場に任せる、そして、D保健・医療・福祉は無料とせず「受益者負担」とすること、などだ。こうした条件は「構造調整プログラム」(SAP)と呼ばれている。
賃金は凍結、物価は上昇、政府の保健医療予 算は大幅削減、保健医療サービスは有料化などでは、途上国の民衆はたまったものではない。実情の一端を示そう。世界人口60億のうち8億の人々が基本的な保健医療サービスを受けることができない。26億の人々は、健康にとってもっとも基本的な要素である安全な飲料水が得られず下水処理施設も持っていない。これは、「健康」という人間の基本的権利・人権の否定そのものである。
民衆による国際健康会議が開催された!
昨年(2000年)12月4〜8日、バング ラデシュで「民衆による国際健康会議」(PHA)が開催された。保健・健康、地域開発、政策提言(アドヴォカシー)、消費者運動などにかかわる活動家や団体を結ぶ7つの世界大ネットワーク型NGOが共催して実現し、参加者は1300名を越えた。日本人からは、主催者側の一人である私を含めて16名が参加した。
グローバリゼーションと健康についてをメインテーマとした会議は、参加者からの「人々の健康、いのちよりも利益を優先させるな!」との叫びなど、経済のグローバル化が世界中いたるところに及ぼしている影響への怒りが次々と語られた。「世銀、民衆と対面する」と題したセッションでは、世界銀行のシニア・オフィサーが世銀の保健に対する政策を語ると、1300人を越すフロアからは押しとどめることができないほどの世銀に対する非難、非難、非難・・・。WTOに対しては「人々の健康は売り物ではない」、「健康を商品化・商業化してはいけない」との指摘が相次いだ。
世界は動いている。そのなかで、否定的な動 きに対して民衆は「声」を挙げた。“先進国”日本に住む私たちはどうか。どういう「声」を挙げていくのか。一緒に考えたい。
<国際民衆保健協議会(IPHC)日本連絡事務所代表>