日本聖公会中部教区・名古屋学生青年センター
1.29逮捕事件より 私たちの生活を考える
初出:1998/5 発行 『こえ』 No.35
ささしま・野宿労働者と共に
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川村 直子/名古屋学生青年センター職員

 1月29日早朝、名古屋で野宿者とその支援者の計8名が、2名の「ホームレス」男性に傷害を追わせたとの容疑により逮捕されました。一部マスコミでは、支援活動上の意見の対立がこの事件の原因であるかのように報道されました。しかし、これは全く事実ではありません。「被害者」とされるTら2名は、野宿者の仲間であるような顔をしながら、実は高齢の上、難聴などのハンディキャップがあり「弱い社会的立場」にあるYさんを言葉巧みに囲い込み、暴力をふるい、多額の年金を奪い、揚げ句のはてに肋骨8本を折るという重傷を負わせていたのです。Tには特定の警官との親密な交際があり、Yさんへの暴力事件もその警官は見て見ぬふりをしていたとの情報がありました。また警察は、常日頃から野宿者を犯罪予備軍として見ており、Yさんの被害届けには耳を貸すこともありませんでした。その時、Yさんの命を守り、Tらに非を認めさせようと、野宿者の仲間とその支援者たちが立ち上がったことの動機は、決して間違ったことではありません。

 8名の「被告」は、4月末の第一回公判終了後まで拘留され続けました。野宿者の命と人権を守ろうとしたその行動は、背後の正確な状況をふまえつつ、慎重かつ公正に評価されなければなりません。しかしながら逮捕以降の処遇を見るとき、公正であるとはとても思えない状況がありました。逮捕された8名は、全治 2週間という、一般的には軽微な「傷害罪」の疑いであるにもかかわらず、2月19日に全員起訴されました。そして、逮捕されて以降保釈されるまで、3ケ月もの長期間にわたり、弁護人以外は外部の人間とほとんど会えず、たとえ家族であっても自由に手紙もやりとり出来ず、書籍などの差し入れは制限され、新聞も自由に読めないという「接見等禁止」の処遇に置かれました。拘置所内では全員独居房に入れられ周りの人達と雑談することも出来ませんでした。これは、全く人権を無視した処遇です。一旦罪を犯したと疑われた人間には基本的な人権さえもないのでしょうか。

 これは明らかに、昨年8月の「若宮冒険とりで『ホームレス』強制排除事件」の際に勢いづいた、名古屋における寄せ場「笹島」の運動に対する弾圧であると考えざるを得ません。

 3月13日に政府は、1.組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法案、2.犯罪捜査のための通信傍受に関する法案、3.刑事訴訟法の一部を改正する法案、いわゆる「組織的犯罪対策3法案」を国会に上程しました。これは憲法における基本的人権の擁護に反するものです。政府は立法の理由として、オウム真理教事件や企業活動への暴力団の浸透などをきっかけの一つとしているとのことですが、この法律の対象はそこに留まることはないでしょう。法律の拡大解釈により、人権や環境を守るために様々な活動をする宗教団体、市民・住民団体に対してまでもこの矛先は向けられてきます。この法案が可決されれば、今まで以上に警察の管理社会になり、私たちの生活が脅かされるようになることは言うまでもありません。日本の社会では、マスコミ報道で常に被害者の立場ばかりが強調されることも手伝って、一般には刑事事件の加害者となることは現実離れしたことと捉えられているのが現状です。しかし現実はそうではないし、この法案が可決されれば、電話の盗聴など、簡単に誰に対しても捜査出来る合法的な理由を警察が得られることになり、さらに警察管理が強いものになることは間違いありません。笹島の運動も、例外ではないでしょう。

 現在、名古屋では700人以上もの人が野宿を強いられています。多数を占めるかつての日雇い労働者以外にも、相次ぐ企業の倒産等で、今まで見られなかった層の野宿者が激増しています。そして3月には、名古屋市議会の建設委員会で「公園のホームレスを一掃する」との内容の討議があったことが明らかになりました。この討議内容から、2005年の愛知万博開催に向けてますます「ホームレス」の排除は厳しいものになることが予想され、その先取りとして今回の弾圧事件があったのではないかとも思われます。何の方策も持たずに、ただ排除するだけでは問題の解決にはならず、私たちはそのような排除を断固として許すことは出来ないと考えます。

 8名の裁判は現在も、名古屋地方裁判所にて進行中です。公正な裁判が行われるよう、また野宿者の置かれた現実が広く理解されますよう、引き続き皆さまのご注目とご支援を宣しくお願いいたします。

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