[クレバー・ハンス] 

                           司祭 テモテ宮嶋 眞

 


 

 クレバー・ハンスという馬がドイツにいました。その名の通りとても「賢い」馬で、なんと計算ができる馬でした。簡単な数式を書いたカードを見せると、彼は、やおら前足をあげて、答えの数だけトン、トン、トンと床を叩きます。足し算だけでなく、引き算などもできたようです。8+3というカードを見せると、彼はトン、トンと叩き始め、11回叩き終わると、静かに前足を下ろしてたたくのをやめました。。

 計算のできる馬だというので、彼は国中の大評判になりました。しかし、疑う者もいました。何かトリックがあるのではないかと。そこで、ハンス調査委員会が組織されて、いろいろ検討を加えましたがわかりません。飼い主が一緒にいれば答えを教えているのかも知れないというので、飼い主のいないところで実験を続けましたが、それでもハンスは正解を出し続けました。

 そこで、ついに調査委員会は「この馬に限っては、計算できる能力がある」という結論を出そうとしました。

  その時、一人の心理学者が、この調査委員会の間違いを救うことになりました。心理学者は、さまざまな実験をするので、実験の条件ということに敏感です。少し条件が変わると、結果が大きく違ってくることを知っているからです。この心理学者は、カードをハンスにだけ見せて実験しました。するとたちまちハンスは正解を出せなくなり、床をずっと叩くようになったのです。

   さらに調べたところようやく、ハンスのトリックがわかりました。問題のカードを周りの人間が見ていると、簡単な問題ですから人間はすぐに計算し、答えがわかります。「ハンスが計算できる」と思っている人間は、正解の数だけハンスが床を叩いたところで、「ああ、正解」と一瞬、表情が変化するのでしょう。馬の目は、人間の40倍以上鋭いといわれ、微妙な人間の表情の変化を読み取ることができて、そこで叩くのをやめるのです。ですから、馬だけに問題を見せて、周りの人間が正解を知らない時には、ハンスは、ずっと床を叩き続けたのです。

 周りの人間が気付かないうちに答えを教えていたという例ですが、私たちは、自分で意識しないで、他人に与えている影響が結構あるようです。恐ろしい気がしますが、でも、互いによい影響も与え合うことができて、人間の社会は成り立っているのです。私たちがその表情をしっかり見たいのは神さまです。神さまがうれしそうにしてくれることをしっかりと行いたいし、神さまの表情が一瞬曇るようなことをしたくありません。神さまに無視されて空しく床を叩き続けるようなこともゴメンです。