月報「コイノニア」
2002年11月号 No.231


イスラームをめぐって(終)

司祭ヨハネ

天と地の主権は神に属し、すべての行き着く先は神のみもとである。
(24「光の章」42)

ムハンマドが建設したイスラーム共同体(ウンマ)は政教一致の宗教共同体でした。そこには聖と俗の区別はなく、内面・外面を問わず人間生活のあらゆる側面がアッラーによって指導されるべきものでした。これがシャリーア(イスラーム法)と呼ばれるものです。アッラーの意志は最終的にコーランとハディースに示されています。それらが直接適用できない事態については、教団の長老たちによる合同決議(イジマ)がシャリーアを決定しました。ウンマが拡大し、アラブ以外の多数の異民族が改宗してイスラーム世界に参入するにつれ、異なる文化的背景から提起される諸問題に対処するために、より精密な法体系の整備が求められました。しかもそれはアッラーの啓示に基づく神聖な法体系であり、これを守るものとして法学者(ウラマー)の一団が形成されます。教団の頂点に立つカリフは共同体の代表者であり保護者であるに過ぎず、ムハンマドの権威を持ち得ない。カリフといえどもシャリーアの下に従属する。こうしてウラマーたちが共同体の神聖な権威を担う者として、国家組織からの独立性を強めて行きます。
 ウマイヤ朝による異民族征服と支配の拡大により、キリスト教世界にも大きな変化が生じました。ローマ帝国から切り離されたシリアやエジプトではそれまで主流だった正統派キリスト教が少数派となり、異端とされた単性論派が多数派となってシリア教会やコプト教会を組織しました。カフカス地方のキリスト教徒もギリシア正教会から離れてグルジア教会やアルメニア教会が伸張し、サワード(イラク)ではもともと主流だったネストリオス派がアラブ支配の下で発展しました。
 ムハンマドとの血縁が遠いウマイヤ朝を倒し、ムハンマドの叔父アッバースの子孫がカリフとなって権力を握ったのがアッバース朝(750―1258)です。最初から異民族統一国家として成立したアッバース朝は、国家統治の基礎にシャリーアを据えるためにウラマーたちを登用しますが、それによってウラマーたちの間に分裂が生じます。現実の国家組織に適用すべく法を組織しようとする「法学者」グループと、国家と衝突しても理想の神聖法体系を追求しようとする「神学者」グループです。この基本的な二つの立場の対立は今日のイスラーム世界においてもしばしば見られるところです。
 アッバース朝は、支配の拠点としてティグリス河畔にバクダードを建設し、そこを中心に繁栄しました。かつてペルシア帝国領であったイラクにはギリシア語による論理学や自然科学の書物が多く残されており、ユダヤ教徒やネストリオス派の学者たちによってアラム語(シリア語)への翻訳が行われていましたが、アッバース朝のもとで改めてアラビア語への翻訳が急速に進みました。アラビア語はギリシア語に代わって中東地域共通の学問用語となり、イスラーム世界における哲学、論理学、自然科学の発展の時代を迎えます。やがて十字軍や交易を通してヨーロッパはイスラーム世界から多くを学ぶことになりますが、それら興味深い歴史的展開については世界史の書物にゆずります。
 さて、偏見を持たずにイスラームを理解したいと願い、自分の勉強を兼ねて無謀にも連載を始めましたが、多くの方々から望外の励ましをいただき、一四回を数えるに至りました。ようやく緒についた所ではありますが、ここで一旦連載を打ち切らせていただきます。お言葉をかけてくださった方々、また、ここにリストを掲げることはできませんが、図版を借用した書物、参考にさせていただいた数多くの文献の著書の方々に深く感謝いたします。

図は「法学の講義」。モスクの礼拝所や中庭などで、一般公開で行われることが多かった。


洗礼・堅信おめでとうございます。

11月24日、降臨節前主日、教会暦の一年の最後の主日であるこの日、新たに三名のお仲間がふえました。
 武藤六治京都教区主教をお迎えし、聖歌隊のプロセッションも加わり、マリア高瀬佳子さん(教父母末松義密さん、南明美さん、末松玲子さん)が洗礼堅信式、ベタニヤのマリア小林由布子さん(続木創さん、吉村由理さん、浦地愛さん)ほか一名が堅信式を受領されました。


ボーイスカウト24団50周年について

日本ボーイスカウト
京都第二四団
団委員長 
三輪 寛

 聖マリア教会を母体として日本聖公会戦後初のボーイ隊の発隊に伴い、日本ボーイスカウト京都第二四団が生まれました。このたび発団50周年記念礼拝・式典・懇親会に際しましてご協力を頂き、誠にありがとうございました。おかげさまで無事終えることが出来ました。尚50周年記念事業として記念誌発行が控えております。
 スカウティングの始めに「ちかい」と「おきて」の宣誓をします、スカウトのちかいに「神(仏)と国に誠を尽くし、おきてを守ります」とあり。おきての8番目に「スカウトは感謝の心をもつ。スカウトは、信仰をあつくし、自然と社会の恵みに感謝します。お礼の心で、自然をいつくしみ、社会に奉仕します」とあり。 創始者のロバート・ベーデン-パウエルはスカウティングをするためには信仰がなけれはいけないと言っております。ボースカウト日本連盟の教育規定にもキャンプや集会にスカウツオンを行い、信仰を奨めています。しかし、その中で特定の宗教に特化することは禁じています。我が24団を見ると、母体は確かにキリスト教日本聖公会聖マリア教会でありますが、歴代の司祭及び教会委員会の方々のボーイスカウト精神のご理解による寛大なご配慮のおかげで、スカウト・リーダーは色々な宗教を持っている者・無宗教の者がいると思います。スカウティングを通して、各自の宗教での信仰心を持っている者はより信仰をあつくし、無宗教者が何らかの信仰心を持ってくれる事が望ましいと思っております。
 お祈りの時、教会では十字を 神社や寺では手を合わせます。その時、何を願っているのでしょうか? 何がしかが成し遂げられますように、宝くじが当たりますように、とか願望を祈っていないでしょうか。祈りに感謝の心を持つと、おかげさまで今日一日無事に過ごせましたと、お礼の気持ちが含まれる事により、布施がなされる事になります。布施と言うとお金を想像しますが、言葉による布施もあります。感謝の心を持つには、十二分に満足するよりも腹八分目を心がけることにより、心に余裕が出来て言葉や行動に表れます。例えば身近な夫婦の間で・親子間で・ご近所間で、常日頃怠りがちな朝の挨拶をする事で新鮮な一日が始まります。
 入隊式・上進式・クリスマスに礼拝堂での厳粛な式典、各隊の集会時に教会ホールを利用する度に、母体が日本聖公会聖マリア教会である事のありがたさを、スカウトをはじめ団関係者が感じてもらいたいものです。今後とも、宜しくお願い致します。 弥栄


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