ハラスメント防止・対応にむけての提言

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20091123

大阪教区第102(定期)教区会

 

 

 

大阪教区ハラスメント防止・対応に向けて

     −支え合い,祈り合う“ケアし合う共同体”をめざして−

 

提言書の提出の目的

 

◇教区にハラスメント防止・対応に関する担当組織を設立し,活動する

 

*詳しい内容は,“ハラスメント対応・防止にむけての提言”の各頁を参考にしてください。

 

教区の指針 

 

1,児童保護の観点を加える

   →弱い立場に立たされた人たちへの配慮になる

 

2,私たちが弱さをもった存在であることへの認識をもつ

   →教会は過去数々の人権侵害をしてきており,それに関する認識と反省

    が必要

 

3,教区の人々が関心をもって,協力していきやすいようにする

 

 

課題 

◆ 予防・対応を担う体制づくり→ハラスメント防止委員会の設立

 

◆ 子どもなど弱い立場にある人の保護→児童虐待への対応強化

 

 

ハラスメント防止委員会の機能と目的

 

 

1.ハラスメント防止・対応のための体制づくりに向けて

 

1-1 目的

 日本聖公会第56(定期)総会決議第21号を受けて,管区より“セクシャル・ハラスメント防止機関ならびに相談窓口の設置”及び,2007325日の“すべてのハラスメントを防止するためのモデル案(「教会におけるハラスメントを防止するために」管区事務所,2007)”が提示された。大阪教区(以下,教区と略す)ハラスメント防止委員会(仮称)は,上記の提案を受けて,教区にハラスメント防止・対応に関する担当組織を設立し,活動することを目的とする。

 

2-2 経緯

 京都教区において20014月に訴えられた元牧師による性的虐待事件に関して,同教区が直ちに被害者の立場に立って訴えを聞き,調査をしなかったために,長期間の裁判を経てもなお,被害者を苦しめている状況がある。このような人権侵害が二度と起きないように,第56定期総会で京都教区から,“セクシャル・ハラスメント防止機関ならびに相談窓口の設置のためのモデルを策定する件”が提出された。これは,日本聖公会がこの問題について真剣に反省し,再発を防ぐきっかけとなった。特に,管区女性デスクは,この問題に対して,被害に遭いやすい女性の人権問題として真摯に取り組んできた。そして,2007年に,性的虐待はもちろんのこと,生活の様々な場で起きるセクシャル・ハラスメント,そして,様々なハラスメントにも対応する“すべてハラスメント防止のためのモデル案(管区事務所,2007)(以下,モデル案とする)”を各教区に呈示した。

 ハラスメントとは,“さまざまな力関係に伴い,言葉,態度,行為によって継続的に脅かす心理的・身体的・性的な暴力であり,人権を侵害する行為(モデル案)”である。このような人権問題は,人々に大きな苦痛をもたらす。京都教区で起きた事件だけでなく,残念ながら,教会の中でもこれまでハラスメントが多く起きてきた。このことを深く認識していく必要がある。モデル案では,各教区でハラスメントに対する問題を考えるときに1.すべての人の人格の尊厳を尊ぶことが,私たちの教会としての基本的な立場であり,信仰的な責任であり,被害者の尊厳の回復を第一義に考えること,2.ハラスメントに対する認識は,信仰共同体の形成の上で非常に重要な課題であることを念頭におく必要があると明記されている。また,“ハラスメント防止のためのガイドライン”を各教区が設けて,教区としての基本的な態度と方針を明確にし,防止に取り組む機関を設置し,相談窓口,調査方法を確立して,それらを周知させることが求められている。そして,このような体制を作るだけではなく,すべての人が生かされ,神から与えられた交わりを回復するように働くことであり,その道筋の中でこの課題を位置づけることが大切だと述べられている。そのためには,ハラスメント防止のための研修プログラムやこの問題に対応できる人材を育成することの必要性が訴えられている。

 これらの提言を受けて教区では,ハラスメントという人権問題を真剣に受け止め,ハラスメント防止に向けての体制づくりを進めていきたいと考えている。

 

 

3.言葉の定義

この提案書の中で,用いられる言葉の定義について記す。

 

教区とは,大阪教区を指す。具体的に大阪教区に所属する教会または組織の営みに参加している人を指す。ただし,教区内にある関係施設で働き,活動している人は原則として含まない。

 

主教とは,大阪教区主教を指す。

 

ハラスメントとは,ハラスメントとは,“さまざまな力関係に伴い,言葉,態度,行為によって継続的に脅かす心理的・身体的・性的な暴力であり,人権を侵害する行為(モデル案)”である。相手の意に反する性的または,不当な言葉や行為によって相手に屈辱や精神的苦痛を与えることにより,相手の社会生活に害が及ぼされることと一般的に定義される。問題となる言動が多数の人に向けられたものでも,その言動によって不快な思いをさせることも含まれる。ハラスメントには,セクシャル・ハラスメント,モラル・ハラスメント,パワー・ハラスメントなどがある(詳細は,防6-7 のハラスメントの定義の項を参照。)。

 

児童とは,児童福祉法に基づく年齢18歳未満の者を指す。

 

児童虐待とは, 児童に対する精神的虐待,ネグレクト(遺棄・放任),身体的虐待,性的

虐待を指す(詳細は,防6-7のハラスメントの定義の項を参照)。児童虐待を防止するための法律として児童虐待防止法が2000年に施行され,2004年,2007年に改訂されている。児童虐待防止法では,主に保護者による虐待が対象だが,“何人も児童に対し,虐待をしてはならない(児童虐待防止法第3条)”第3条と、諸外国の例から見ると,すべての人が対象になると考えてよい。 あとを削除

 

DVとは, ドメステック・バイオレンス(Domestic violence)配偶者・恋人からの暴力

を指す。

 

霊的虐待とは,神や信仰,宗教の名のもとに正当化された行為や脅しによる人の不適切な行為を指す。基本的にはマインド・コントロール1DV(ドメスティック・バイオレンスでみられる“ゆがんだ権力支配構造”と同じ現象と考えられる。教会で起きる虐待の殆どは霊的虐待と複合しており,被害者に過剰な我慢を強いて,長期化,複雑化し,心身に深刻な被害をもたらすことが多いことが報告されている(ズヴィー,20022008

パストラル・ケア(pastoral care)とは,牧会的配慮と訳される。牧師その他の患者の属する宗教(教会,会衆,その他)の指導者から与えられる心理療法的なケアのこと。

 

モデル案(2007とは,“すべてハラスメント防止のためのモデル案(「教会におけるハラスメントを防止するために」管区事務所,2007)を指す。

 

CAPChild assault prevention)とは, 子どもへの暴力防止プログラムと言われ,子どもたち自身が人権意識をしっかり持ち, 暴力から自分を守るための知識や技能(スキル)を持つ訓練を行う取り組み。1978年に米国オハイオ州コロンバスのレイプ救援センター で初めて開発・実施され,その後,日本も含め,世界16カ国に普及している。

 

アサーション(assertion)とは,自分の気持ちや考えを相手に伝えるが,相手のことも配慮するやり方,自分も相手も大切にするやり方。アサーションの発祥はアメリカで,1950年代に行動療法と呼ばれる心理療法の流れをくむ技法である。当初は自己主張が苦手な人を対象としたカウンセリング技法から始まり,その理論は196070年代には「人権拡張」「差別撤廃」運動において,それまで言動を圧迫され続けていた人達に影響を与えた。アサーションは,主張・断言などと和訳されているが,日本語としては少し強い表現という印象があるためにアサーションと和訳せずに言ったり,「(さわやかな)自己表現」といったりしている。

 

 

3.ハラスメント防止に向けての大阪教区での活動報告

 3-1 活動の始まりとハラスメント防止・対応(準備)委員会の設立

 2007年に管区の “すべてのハラスメントを防止するためのモデル案の提言 (「教会におけるハラスメントを防止するために」管区事務所,2007)を受けて,教区でもセクシャル・ハラスメント防止にむけての取り組みが始まり,管区の女性デスクの協力を得て,教役者会でセクシャル・ハラスメント防止のための学習会を実施した。2008年には,ハラスメント防止を進めるための分かち合いと研修の会が開催され、当教区からも参加した。その後,防止のガイドライン作成と,防止への取り組みを具体化するために20094月にハラスメント防止・対応委員会(仮称)を発足させた。

 3-2 名称 本委員会の名称を“ハラスメント防止・対応委員会(仮称)”と決定した。

  以下の2点の理由からセクシャル・ハラスメントだけでなく,“ハラスメント全体”

 を扱っていくこととした。

(1)モデル案(2007)でセクシャル・ハラスメントだけでなく,ハラスメント全体を取り

   扱うことが推奨されている。

(2)セクシャル・ハラスメントは他のハラスメントと複合し,複雑に関係しあっており,セクシャル・ハラスメントだけを扱うと相談者が相談しにくいと考えられる。

 3-3 目的

   ハラスメント防止・対応にむけて大阪教区(以下,教区と略す)の支援体制を構築することを目的とした。具体的には,2009年度教区会にてハラスメント防止に対してのガイドラインと体制の基本案の提出を目標とした。

 3-4 ハラスメント防止・対応委員会のメンバー

   委員長 齊藤 壹 司祭(教区人権担当)

   委員  山野上 素充 司祭,原田 光雄 司祭, 八木 さゆり(西宮聖ペテロ

       教会信徒),池本 真知子(大阪聖ガブリエル教会信徒)

   *7月から大西主教が臨席。

 3-5 ハラスメント防止・対応委員会の活動実績

   毎月1回,大阪聖パウロ教会にて開催した。10月までの開催日時,参加人数につい

  ては表1に記した。

   表1 開催日時と参加人数

開催日

時間

参加人数

415日(水)

10:0012:00

4

513日(水)

10:0012:00

5

617日(水)

10:3012:30

5

715日(水)

10:3012:30

6

916日(水)

10:0012:00

6

107日(水)

10:3012:30

5

 

 

 

 

 

 

 

 3-6委員会の活動計画

 委員会の活動計画は,@教区でのハラスメント防止に対する基本方針,ガイドライン,防止に向けた体制づくりの大まかな基本案を作成し,A教区会に提出し,修正・検討を行い,Bそれに従って,実際の運用に当たり,細かい規定や具体的な実施計画の検討を委員会や関連する委員会(ガイドライン作成に関してのワーキング・グループや専門家も含む)で決めて,実施可能な事項から実行していくこととした。

 

3-7 現状報告と今後の課題

 ハラスメント防止に関する教区の方針を話し合い,まとめた。今後,更に,ハラスメント防止に向けての対応・体制について検討をしていく予定である。これまで話しあった内容に関しては,本提言にまとめた。

 

 

4.大阪教区におけるハラスメント防止・対応にむけての提言

 4-1 考え方

 ハラスメント防止・対応委員会(仮称)で,管区の “すべてのハラスメントを防止するためのモデル案(管区事務所,2007)を受けて話し合われた教区としての考え方は,1.すべての人の人格の尊厳を尊ぶことが,私たちの教会としての基本的な立場であり,信仰的な責任であり,被害者の尊厳の回復を第一義に考えること,2.ハラスメントに対する認識は,信仰共同体の形成の上で非常に重要な課題であることを基本とした。その上で教区でのハラスメント防止にむけて取り組んでいく際に3つの観点が必要であると話し合われた。

 第1に,児童保護という観点が挙げられる。京都で起きたハラスメントの事件は,実質的には児童虐待に相当し,子どものように弱い立場にある人たちの保護が何よりも強調される必要があると考えられる。聖書でも,弱い立場におかれた人々への虐待を重く見ており,諸外国では,児童虐待に関しては教会のみならず,社会的にも厳しい規定が設けられている。日本でも児童虐待防止法第3条にあるように“何人も児童に虐待してはならない”と法律で規定されている。特に,児童虐待は,教会のような人間関係が密な場所では特に注意を払う必要がある。モデル案(2007)の背景にあるハラスメントの考え方(被害に遭いやすい女性に焦点を当てた人権問題)の範疇で扱う問題以上に重要視していかなければならない。大阪は,児童虐待の通報件数が全国1である。このことは,大阪にある教会として関心をもっていく必要性がある。もちろん,通報件数が多いからといって,虐待発生件数が多いとは限らない。通報されるということは社会が児童虐待を問題視し,社会で解決していこうという気風の現われであるとも言える。まず,虐待に遭った場合だけでなく,虐待を見たり,聞いたりした場合にもまず,知らせるということが問題の解決につながるというシステムを作る必要があるだろう。また,子ども自身が自ら相談しやすいようなシステムを作っていく必要もある。教会は社会の縮図であり,社会で起きる問題は,教会の中にもみんな存在する。それ故に何よりも教会が子どもを大切に育てたいという祈りが望まれる。

 2に,私たちが弱さをもった存在であることへの認識が必要である。ハラスメントは起こしてはならないものであるが,教会も,歴史的にこれまで数限りないハラスメントを起こしてきた。それらはハラスメントと呼ばれてこなかったが,差別や人権問題として取り扱われてきた。大阪では,被差別部落(聖公会での中川発言など),在日朝鮮・韓国人,釜ケ崎の問題など,その他歴史的にも多くの苦い経験をもっている。ハラスメントは,弱い立場に立たされた人々への不当な権力支配から起きるものであり,そうした問題を直視し,認識することが大切であろう。何よりもわたしたちは皆,罪人であり,ハラスメントを起こしてしまう弱さや脆さをもっていることを認識した上で,ハラスメントを起こさずに済むような環境づくりを目指していきたいと願っている。ハラスメントをしてはいけないということだけを過度に強調し,監視していくようなシステムを作るのではなく,大事に至らないように,弱さを担い合い,支え合い,祈り合う“ケアしあう共同体”を作ることが求められる。そして,ハラスメントが起きてしまった場合は,被害者と加害者だけの問題とせずに,その問題に無関心にならないで,共同体として,その痛みを引き受け,神から何を求められているか謙虚に耳を傾け,痛みからの回復と共同体としての和解にむけての道を歩みたいと願っている。そうしようと願うとき,“神の国が近づいてくる”といえるのではないだろうか。

 3に,教区の人々が関心をもって,協力していきやすいようにすることが大切である。どんなによい方針であっても,教区の人々が真意を理解出来なければ実行はできない。逆に,不十分なものであっても,教区の人々の思いを十分に反映するなら,徐々によいものに変わっていく。高い目標をもちつつ,徐々に実現可能なものから実行に移す必要があると考えている。そのためには,十分に聞く姿勢をもち,この方針が教会にとって,また,社会にとって益となるように検討を加えていきたいと考えている。そのために教区の人々の協力を求めることが大切だと思われる。また,教区の人々にわかりやすく,利用しやすいシステムを構築する必要があるだろう。

 この3つの観点をもって,教区のガイドライン作成に取り組んでいきたいと考えている。

 

 

4-2 ハラスメントの定義

 一般的に, ハラスメントとは,相手の意に反する性的または,不当な言葉や行為によって相手に屈辱や精神的苦痛を与えることにより,相手の社会生活に害が及ぼされることである。問題となる言動が多数の人に向けられたものでも,その言動によって不快な思いをさせることも含まれる。ハラスメントには,セクシャル・ハラスメント,モラル・ハラスメント,パワー・ハラスメントなどがある。

 セクシャル・ハラスメント

 ・不適切な身体接触,性的虐待,性的ジョークなどで相手を不快にする性的な言動を意

  味する。

 モラル・ハラスメント

 ・精神的虐待あるいは嫌がらせのことで,態度や行動で相手の言動をそれとなく非難す

  ることから始まり,徐々に中傷・無視・冷たいまなざし・罵倒などの精神的暴力を行

  うことによって,相手の安心や自信,自由の感情を著しく減退させ,自分の思い通り

  に支配しようとするものである。

 パワー・ハラスメント

 ・教会の指導者等が,職務上の権限を用いて,不適切で不当な言動を行い,相手に嫌

  がらせ行為を行うことを指す。教会指導者とは,教役者,教会諸委員,日曜学校・

  教会学校教師などを指す。

 児童虐待

 ・児童とは,児童福祉法に基づく年齢18歳未満の者を指す。

 ・児童虐待とは,

   ・精神的虐待(いじめ,霊的虐待,パワー・ハラスメント,モラル・ハラスメント

          を含む)

   ・ネグレクト(遺棄,放任)

   ・身体的虐待(身体的暴力を伴ういじめも含む)

   ・性的虐待(性的暴行,性的搾取,セクシャル・ハラスメント)

 

4-3 ハラスメント防止・対応体制(案)

 名称 本委員会の名称を“ハラスメント防止・対応委員会(仮称)”とする。

 

 ・教区内での位置づけ

   1は,教区内におけるハラスメント防止・対応委員会の位置づけを示したもの

  である。ハラスメント防止・対応委員は,主教管轄の特別部【教会(牧会)支援部(仮

  称)】の中にハラスメント防止委員会を設置する。これは,責任の所在を明確化し,迅

  速な対応のために主教の管理の下に運営される必要性がある一方,主教や常置委員会

  からある程度の距離を持つほうが一般的に相談しやすいという理由から考えられた体

制である。

 目的

   1.教区の構成員がハラスメントや虐待に対する理解を深め,協力して予防に努め

    ることを目的とする。

   2.ハラスメントや虐待が起きてしまったときの対応を行うことを目的とする。

 ・機能

  1ハラスメント・児童虐待の予防について

  ハラスメントを起こさないような土壌づくりとして,ハラスメントへの理解を深め

  る教育や人権教育などを通じての啓発活動やパストラル・ケアや牧会相談の充実を

  図っていくための活動を行う。

  2ハラスメント・児童虐待の防止について

  ハラスメントが起きたときの事件解決,加害者への対応被害者や事件に関連した

  人々,教会へのパストラル・ケアを行う。

対象

  主に大阪教区の教会または組織の営みに参加している人を対象とする。ただし,

  教区の関係施設に関しては,それぞれの施設でのハラスメント防止・対応に関する方

  針に原則的に従う。協力・連携が必要な場合は,状況に応じて柔軟に対応する。

防止・対応委員会の組織

 防止・対応委員会の組織は,以下のとおりとする。

(常任委員)

 委員長は,常置委員会の推薦を得て,主教の任命により1名を置く。

 副委員長は,常置委員会の推薦を得て,主教の任命により1名を置く。

 ハラスメント防止・対応委員は,常置委員会の推薦を得てと主教の任命により若干名を置く。

 ・防止・対応委員は,男女,年齢比が偏ることのないようにする

 ・教役者は,臨床牧会,心理・社会福祉,教育,カウンセリング・法律(特に児童福祉)

  等の基礎知識や経験のある者がメンバーになることが望ましい。

 ・信徒も教役者の基準に準じる。

(相談窓口相談員)

ハラスメントや虐待に関する相談窓口を防止・対応委員会内に設置する。

 相談窓口相談員は,防止・対応委員会の指名と常置委員会の承認により登用される。

 相談窓口相談員は,カウンセリングの専門的知識・経験のある者を登用する。詳細は

相談窓口の規定を別に定める。

(協力委員)

 協力委員は,防止・対応委員会がハラスメント防止に関する専門的な助言や援助を必要とする場合に必要に応じて協力関係をもつ。

 協力委員は,防止・対応委員会の指名と常置委員会の承認により登用される。

 協力委員は,専門家(弁護士,ソーシャルワーカー,精神科医,心理士,通訳等)を登用する。

(協力団体)

 防止・対応委員会はハラスメント防止に関する専門的な対応機関や知識をもつ団体に関する情報を有し,必要なときには連携をとれるようにする。

 これらの機関・団体としては,次のものが考えられる。

 <相談・対応>

    ・警察(深刻な事件性のあるものは警察に連絡),警察内相談窓口

    ・人権相談窓口(ハラスメント,いじめ,虐待などの相談を受け付ける)

    ・インターネット人権相談・インターネット人権相談

    ・児童相談所(虐待,いじめなどの相談・対応)

    ・女性センター(DV,虐待,ハラスメントなどの相談)

        ・法務局(常設人権相談所,子ども人権110,女性の人権ホットライン,外国人の

         ための人権相談所,インターネット人権相談)

  <ケア・更正>

    ・DV,ハラスメント被害者の自助グループ

    ・暴力抑止プログラムなど加害者への教育・更正団体

  <教育・啓発>

    ・人権教育,CAP,アサーション等心理教育,ストレス管理や対処法,黙想指導

     などを実施できる団体や機関     

 等が考えられる。  

(調査委員)

 防止・対応委員会は,必要時に調査委員会を設置し,調査委員を任命することができる。

 調査委員には,協力委員や協力団体が入ることもある。調査委員規定は別に定める。

 調査委員の登用に関しては,予め調査依頼人の了解を得て行う。

 調査は最長2週間とし,調査の目的,内容,方法が予め調査依頼人に知らされ,調査

 依頼人の了承を得る。

 調査の過程,結果は,調査依頼人にすべて知らされる。

 調査に関しては,調査依頼人が情報を公開してよい範囲を調査依頼人と調査委員との間で決めておく。

 調査依頼人が,調査の中止を申し出たときは,調査は中止される。

 

相談窓口及び調査委員に関する規定は,今後作成していく予定である。

 

 

 


 

                             

 

1 大阪教区組織図

 

注)図1は,ハラスメント防止委員会の教区での位置づけを示すために教区組織を便宜上

  簡略化して描いたものである。

 

 

 

5.ハラスメント防止に関する体制づくりに向けての検討事項

 5-1 ハラスメントが起きた時の対応について

 ハラスメントが起きた場合,一番重要な役割を果たすのが,相談窓口である。相談窓口の充実こそがハラスメントを解決する第一歩である。何よりも,安心して相談できる体制づくりを目指すべきである。そのためには,相談員の専門性を重視しなければならない。相談員は,カウンセリングの基礎知識をもち,相談者の訴えを聴き取る力を持てる人である必要がある。相談体制を充実させることで多くのハラスメントは解決に向かうと考えられる。そして,相談員の独立した活動を保証し,専門性を生かすことでハラスメントの対応だけでなく,パストラル・ケアを含め,専門的な援助を含めた総合的ケアにつなげていくことが可能となる。

 被害者が望むのは,自分の思いを受け止めて対応可能なことは迅速に対応してくれるような充実した相談と総合的なケアである。

 次に重要なのは,教区にどのような対応が可能であるかを具体的に明らかにすることである。被害者は,一刻も早く対応してほしいと望んでいる。特に深刻な虐待やハラスメントは,早急に対応しなければ,被害を深刻化させてしまう。そのために,教区レベルで対応しなければならなくなったときは,だれが責任を持ってどのように対応するのかを明確にしておく必要がある。そのための対応方法を大阪教区ハラスメント対応の手続きとして図2に示した。相談者は,教区の相談窓口以外にも,他の専門機関を利用する自由を妨げられないことが重要である。ハラスメントの解決は,被害者にあるため,解決のための様々な方法を提示する必要がある。相談窓口で相談者が教区レベルでの解決を望む場合は,その対応の指示は原則,防止・対応委員長に委任される。防止・対応委員長は,訴えを受け,被害の状況に応じて,主教,防止・対応委員会,常置委員会等必要な部署と連絡をとりあい,必要ならば,外部の専門機関とも連携して解決の指揮を執る。主教は,総責任者であり,監督を行う。教区に訴えた人の異議申立ては主教が受け,その対応を行う。調査が必要なときは,防止委員会が調査を調査委員もしくは,外部機関に依頼し, 2週間をめどに調査を終えるように努力をする。調査委員と防止・対応委員は,ハラスメントの被害に遭った人やハラスメント問題に関連した家族や教会に対して専門的なケアを含め,パストラル・ケア等の総合的なケアの提供をしていかなければならない。また,加害者に対しても,再発させないための対応や訓練,必要であれば専門的治療を受けられるように促していく必要がある。

 ハラスメントへの対応は,対応に当たる者すべてに原則守秘義務が(児童虐待など深刻なケースを除く)科せられる。被害者もしくは,相談者の安全がなによりもまず確保されなければならない。相談に関する情報は被害者及び相談者の了解を得て情報を管理しなければならない。最近はインターネット上での人権侵害が広がり,問題化していることもあり,そのような行為が違法行為[]であることを認識し,周知させていく責任が伴う。インターネット上で不特定多数の者に問題が知られることは,解決にはならず,むしろ,被害者に多くの心理的負担を背負わせてしまうことを重くみる必要がある。問題の解決は大事であるが,時間がかかる場合も多くある。むしろ,被害者が安心し,安全が確保できる環境を整えることを念頭におく必要がある。

 何よりも,教区全体に,ハラスメントが起きたときの具体的対応法をパンフレットやホームページなどで明らかにし,それが十分機能し,信頼できる対応体制であるようにしたい。

 

 

2 大阪教区ハラスメントの対応の手続き

5-2 ハラスメントを予防するために必要なこと

 ハラスメントへの対応よりもハラスメントを起こさない土壌づくりに力を入れていくことが大切である。環境,状況によっては,ハラスメントを起こしてしまう可能性をだれもが持っている。むしろ,今,安心して人間関係を保っていられるのは,なぜなのかを問いかけたいと思う。ハラスメントや虐待は,被害者と加害者が焦点に当てられるが,それよりも,被害者,加害者を取り巻く環境に目を向けたい。ハラスメントや虐待が起きるとき,必ずと言っていいほど,それが起きた集団に何か問題を抱えている場合がほとんどである。ハラスメントや虐待の加害者は,起こす前に,小さな問題を抱えて,それを対処できずに問題が積み重なって起きるケースが多い。過去に加害者が被害者であることが多く,過去の問題を正しくケアされてこなかったことが虐待や暴力につながっていくということが臨床的にも示唆されている。問題のない集団はなく,むしろ,問題が起きてもケアしあう集団を育てていくほうがハラスメントや虐待をしてはならないと訴えるよりも効果的だと考えられる。それは,専門家でなくても,ごく一般の人たちが問題を抱えて苦しんでいる人に普段から耳を傾ける姿勢があればいい。自分のことだけでなく,そういう人々のことを気にかけることこそハラスメントや虐待を防止することにつながる。ケアしあう共同体を育てることこそ教会として見直すべきことであり,現代社会に必要な要素である。教会はイエスのように生きたいという思いを持つ不完全な人たちの共同体であり,不完全でありつつも完全な神の国の実現に向けて歩む使命を与えられている。そのためには,教会にできることを最大限に生かしていくことを考えていきたいと思う。

 考えられることは,パストラル・ケアの充実である。第一に相談体制の確立があげられる。具体的に,教役者や日曜学校・教会学校の教師など教会の指導者に対しての教会形成に関するコンサルテーションや専門的なケアが必要なケースへの対応等を相談できる体制づくりをしていくこと,また複数で牧会を行うチーム・ミニストリーを行っていくことなどが考えられるであろう。これらは,教役者だけでできることではない。特に,今は,女性の社会進出を初めとするライフ・スタイルの変化等によりかつてのように“婦人”の献身的な奉仕に依存していくことも難しいだろう。教会で専門的に働く信徒の養成も視野に入れていく方が,現実的だと思われる。

 に,信徒同士でケアしていく心構えを作っていくことが挙げられる。信徒向けに教会でのケアのあり方や方法を学び合うこと(オーストラリアで行われている取り組み,詳しくはGod’s love in Action: pastoral care for everyone(ウェスト・ペナント・ヒル聖マタイ教会編)を参照。)なども有効であろう。

 それに加えて,教育や訓練,啓発も必要である。人権教育,心理教育(傾聴訓練,ストレス・マネージメント,アサーション,リラクゼーション法,CAP,非暴力訓練など),黙想・祈りの指導,聖書の学びなどが考えられる。教会の指導的立場にある人たちには,特にハラスメント防止に対する研修などを行う必要がある。心理教育は,ストレスの対処法などで役に立つものも多いが,外部での研修が可能であるため外部での研修を活用することもよいと思われる。教会で行う黙想・祈りの指導,聖書の学びも十分に心の健康に役に立つ。これらは教会にできることであり,新しいことを企画するよりも,これまで教会が行ってきた聖書の学びや黙想会などを人々が興味をもって参加できるようにその方法や内容を工夫していくだけで十分な働きができると考えられる。たくさん研修すればよいものでもない。今,持っているものの中で十分活用できていないものをあらためて活用していくのに妨げになっている要因を取り除いていくだけでよいのではないかと思われる。

 

 


6.今後の計画と課題

 まず,本教区会で得られた意見等を参考にし,修正,検討を行い,教区の体制を具体的に構築していき,次の教区会で正式に承認を得ることを目標とする。それに従って,実際の運用に当たり,細かい規定や具体的な実施計画の検討をハラスメント防止・対応委員会, 関連する委員会(ガイドライン作成に関してのワーキング・グループや専門家も含む)で決めて,実施可能な事項から徐々に実行に移していき,体制を充実させていく。実行していく中で問題があれば,その都度,検討し,常置委員会や教区会等を通して改訂を行っていくようにする。しかし,何よりも先ず,ハラスメントへの対応や予防に関して関わることのできる人材を探し,育成していくことや教会の共同体を育てる働きが,体制を構築していくこと以上に重要な課題であると考えている。

 

 

7.総括

 本提言は,ハラスメントへの対応とその防止に関する教区での体制づくりの必要性について教区の人々に理解を促すためにまとめたものである。

 第一に,教区でハラスメントへの対応とその防止に関してどこが担当するのか,どのような体制を作るのかが課題である。大事なことは,ハラスメントの予防の具体的方法である。ハラスメントの予防は,教会の共同体を育てる地道な働きに尽きる。しかし,それは,単にハラスメントを予防するだけでなく,それを通じて教会としての成長を促すことになり,結果的に一人一人が豊かな人生を送ることにつながっていくだろう。目に見えるものではなく,目に見えないものを重視していきたいと考えている。次に,もし,ハラスメントが起きた場合,どう対応するのかである。ハラスメントが起きてしまった場合,対応できることは迅速に対応するという姿勢をもつことである。まず,被害者が何を求めているのかを聞き,それに対してできることを明確にし,すぐに対応することが解決に向けての第一歩である。そして,被害者やハラスメントに関係した人々への継続的なケアを行っていくことが求められる。この2つの観点をもって体制を構築していきたいと考えている。本提言では,専門性をもった相談窓口を確立していくことや教区レベルで対応しなければならないケースは,主教の監督の下にハラスメント防止・対応委員会(仮称)が常置委員会等と連携して対応に当たるモデルを示した。

 2に,子どもなど弱い立場にある人の保護の指針を明確に打ち出したいと考えている。

特に,児童虐待は重要視するべきものであり,児童虐待の視点を中心に教区での対応体制を考える必要があると考えている。そのためには,児童虐待に関する相談機関など外部機関との連携など専門的な対応ができるようにしたい。

 今後,教区でのハラスメントへの対応とその防止に関して関心をもってもらえれば幸いである。

 

 

 

 

                  引用文献

 

St Matthew’s Anglican Church, West Pennant Hill (ed) God’s love in Action: pastoral care for everyone.

  

<出版されたもの>

McGilvray,J.(2009). God’s love in Action: pastoral care for everyone: pastoral care for everyone. Acorn press, Victoria, Australia.

 

 

パスカル・ズヴィー 福沢満雄 志村真 (2002)「信仰」という名の虐待 いのちのことば社.

 

 

パスカル・ズヴィー (2008)“「信仰」という名の虐待からの回復”心のアフターケア

 いのちのことば社.

 

日本聖公会管区事務所(2007)教会におけるハラスメントを防止するために 各教会におけるハラスメント防止機関ならびに相談窓口設置にむけて.

 



[] ある集団や個人,社会が,自分たちの都合のいい目的のために,人の心をこっそりと操って自分たち の目的を達成する,というような手法について呼ぶ。正式には,カルト・マインド・コントロールという。カルトとは,単にある熱狂的信念を持ち合った集団のことを指す。その中で,ある種のカルトには危険な共通性をもつものがある。専門的にはその集団のことを破壊的カルトと分類される。カルト・マインド・コントロールをもっと正確に言うと,破壊的カルトのマインド・ コントロールという意味で使用される。

 

[] 「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(プロバイダ責任制限法)において,インターネット上の人権侵害に関しては,プロバイダに対してその情報を削除し,発信者のメール・アドレス,住所などの情報を開示請求することができると明記されている(第41項,第322号)。人権侵害に相当する情報がインターネット上で見つかり,プロバイダが削除に応じなければ,行政機関に相談し,発信者に対して民事訴訟や刑事告訴が可能になる。