〈海外出張報告〉
社会的な問題に取り組むキリスト教基盤の諸施設

池住 圭(中部教区名古屋学生青年センター)

 社会的な問題に関して取り組んでいるキリスト教基盤の諸施設を訪ねたいとの、私のリクエストに対してアレンジされたものは大きく分けて、ホームレス問題、多元化社会の中で起こる諸問題、そして高齢化社会問題に取り組む諸施設であった。(出張期間2000年9月19日〜11月17日)

1、ホームレス問題に取り組む諸施設


 @ノースランベス デイセンター(ロンドン)
宿泊施設は持っていないが、ロンドン市内数カ所で給食サービスを行うほか、ビリヤード場、木工ルーム、シャワー室、荷物一時預かり所、相談窓口などが施設内にあり、常時200名前後の人が利用している。

 Aチャーチ アーミー メリルボーンプロジェクト(ロンドン)
男性のホームレスが多く、女性が諸施設を利用しにくい事を痛感し、1990年に女性専用のホステルとして改築。自立のための職業訓練、生活指導などを提供、数ヶ月で自立する人もいれば、数年住んでいる人もいる。精神的な病を得ている人もおり、政府から精神科医や看護婦、カウンセラーが派遣されて来ている。

 Bバジルセンター(バーミンガム)
青少年だけを対象にした施設。もともとは、小さな工場が集まる地域にあった聖バジル教会のホールをシェルターとして日曜日に開放していたのが始まり。ほとんどの信徒が別の地域に移動した事を機に改築をし、現在はホームレスが一時的に利用するシェルターとして使われている。職業訓練や生活保護申請、相談窓口など、自立のための援助をしている。

 Cケアリング フォー ライフ(シェフィールド)
主に精神的な病を得ている人を対象に運営されている農場で、農作業を通し自立、社会参加を促す事を目的に運営されている。ほとんどの人が生活保護を受けており、農場近くにグループでアパートや一軒家を借り、共同生活をしながら農場に通っているが、そこでの生活指導もしている。

 農場では、鶏や馬、ウサギなどの飼育のほか、野菜、草花を栽培している。鶏卵や野菜、草花は市場に出し現金収入を得ている

 最も大きい収入は鶏卵の販売で、トラクターを買うなど運営費の一部として使われている。採卵を担当している人が、トラクターを誇らしげに見せてくれた姿が印象的であった。また、裁縫や木工所もあり希望者にはその技術を教えている。


2、移住労働者、難民、貧困層のための諸施設

 @ボンブリー バイ ボー地域センター(ロンドン郊外)
小中学生対象の「学童保育所」で英語クラスや異文化理解などのプログラムを行っている。

 Aペッカム福音教会アクションネットワーク(ロンドン郊外)、

 Bプラクシス(ロンドン)


 Cブラック レイ ネイバーフッドサポート(バーミンガム)
最近イギリスに移住して来た青少年を対象に、英語教育やコンピューターなどの職業訓練、仕事を捜す手助けをしている。

 Dフィリピン人移住労働者のためのコミッション(ロンドン)
フィリピン人移住労働者を対象に、主に、生活、労働相談をしている。

 Eその他、ブラック&ホワイトパートナーシップ教会(バーミンガム)、幼稚園、小学校(ロンドンとその郊外)

3、高齢者、青少年、貧困層のための施設

 @メソディスト教会−ランチクラブ(シェフィールド)
独居老人をボランティアがバスで送迎し、安価な昼食を提供し、昼食後はゲームをするなど、交流の時を持っている。昼食は、近隣の小学校のカフェテリアで一緒に作って貰い、ボランティアは配食をするだけである。地域の小学校との連携が興味深かった。

 
Aファーニバル(シェフィールド)、

 Bアーバンセオロジカルユニット(シェフィールド)、

 Cシェフィールド
インナーシティーエキュメニカル ミッション(シェフィールド)
主に貧困層に族する人達ための活動。就職相談や安価な古着や食物の提供。

    ホームレスのほとんどが16才から25才位の青少年である事が、日本のホームレス事情と大きく違う所である。たとえ警察や然るべき施設で保護しても、16才を過ぎていれば、本人の同意がなければ保護者に連絡をする事はしない。ホームレスになる原因は、両親の離婚、両親と死別、家庭内暴力、失業、精神的な病気、不登校、10代の妊娠など、さまざまである。

 興味深かったのは、施設に保護されたホームレスは、自立できるまで施設で生活するのであるが、その間に生活保護の申請を手助けしてもらい、その中から生活費と運営費を負担する。施設にとって財政面でのメリットが大きい事は勿論であるが、費用を負担する事でプログラムへの参加度や責任感を増す、あるいは自立への自信につながるとの事である。

 ホームレスの中には、麻薬やアルコール依存症の人も多く、金銭を与えないように、もし支援をしたいのなら、然るべき組織に募金協力をするようにとのキャンペーンをしていた。金銭を与えると、食物を買うよりも麻薬やアルコールを買うケースが多いというのがその理由である。

 私達の地域では、青少年の路上生活者を見かける事はまれであるが、顕在化していない青少年層の家出が増加しており、また所謂「ひきこもり」という問題も出て来ている。この度、青少年のホームレスのための諸施設を訪ね、私達の地域でも色々な意味で行き場のない青少年達に対する取組みの必要性を痛感した。

    ほとんどの施設がホームレスや移住労働者に対する無理解や、人種差別など、とても根深い問題を抱えながらも、社会問題やそれに伴う社会的弱者に対する教会の開かれた姿勢に感銘を受けた。これは、人権意識の高さに裏付けられているように思う。小学校、幼稚園を訪問した際も、多民族社会の中で、互いに違いを認め合いながら尊重し合って生活をするための「教育プログラム」が組まれており、小さい頃からの人権教育の大切を改めて考えさせられた。

    現在もなお移民を受け入れる事に対して、「問題をもたらすものなのか、或いは豊かな社会を作り出すものなのか」との議論を続けながらも、「健康的な変化(Healthy Change)」として受け入れようとする姿勢は、ますます多元化社会を迎えようとしている私達の地域での教会のあり方やその活動を考える上で、大変参考になった。

    諸施設の運営に対する資金調達の方法は、概ね以下の通りであるが、何より地域のニーズに応え得るような継続的な活動を作り出すことが大切であると実感した。活動を継続する事によって周囲の理解も得られるようになり、直接的、間接的な支援が得られるようになる。更に、地域を変えて行く力になるのだと思う。

 @国内外から資金を得るための専門職員の雇用
 A海外の情報のキャッチ
 Bさまざまな投資活動
 C遺産の10パーセント献金
 D宝くじファンド
 E自治体のチャリティーファンド
 F生活保護から
 Gその他 ・5ポンド運動
・バザー ・クイズナイト ・ダーツ ・コーヒーモーニング ・献金自動引落

    諸施設の訪問に加え、私達の礼拝のあり方の参考にするため、毎主日にはできるだけ多くの教会の礼拝に出席するよう努めた。

 政治難民や経済難民としてさまざまな国からの多くの人々が移住して来、地域が多元化社会に変わって行く中で、礼拝のスタイルが変わっていった教会も多い。多民族の人達と共に捧げる礼拝という事で殊に大きく変化したものは、聖歌など音楽の用いられ方や、代祷、お祈りの方法であると聞いた。また、イエスキリストの像や絵も、黒人であったり、アジア人であったり、また韓国の民族衣装を着ていたりと、とても多様で大変興味深かった。


 イギリスの聖公会も、信徒の高齢化と減少という問題を抱えていて、教会の活性化のため下記のような取組みを行なっている教会もあった。

 
 ・楽器や賛美歌など多様な音楽を用いる。

 ・音楽が大変重要な役割を果たすとの認識のもと、バンドの編成によって若者の参加を促す。
 ・聖歌隊の強化。礼拝音楽担当者が、家庭や小中学校を定期的に訪問し隊員を募集。隊員の保護者が子どもの参加を機に礼拝に出席するようになる。
 ・チャーチウォーデンや認可を受けた信徒の関わりの強化。
 ・「ユース総会」或いは「ユース教区会」の企画。
 ・青年と主教の定期ミーティング。
 ・「タレントカード」。

 因みに、イギリス聖公会では、1980年〜2005年で週169人、2000年〜2005年では週175人の信徒が教会に来なくなるとの統計が出されている。(但し、このような統計、或いは統計を取ること自体を疑問視する教役者や信徒も多い。)


 また、子ども向けから成人向けまで、リーダー養成や信徒指導のための手引書や、ワークブック、OHPなど豊富な教材が作られているなど、私達の教会でも参考になるものも多々あった。
 
 ・「アルファコース」

 ・「Emmaus
 ・「KALEIDOSCOPE」など。  
以 上