聖職・信徒の皆さまへ
日本聖公会

首座主教 ヨハネ 古本純一郎

同時多発「テロ」に対するアピール

 キリストの平和が皆さまとともにありますように。

9月11日、アメリカのニューヨーク、ワシントンなど3都市4か所に起こされた同時多発「テロ」による死者・不明者は、現時点で6000人以上に上ると報じられています。

 この惨事によって、突然、愛する家族・友人また仲間を失った人々の悲しみと怒りは、計り知れないものがあります。そしてこのニュースに触れた人々も、大きな不安と悲しみに包まれています。

 しかし、このように悲しみ・怒りまた不安が渦巻く中においてこそ、わたしたちはキリストを信じる者として、ただひたすらに、キリストの福音に立ち続けることが求められています。米国聖公会総裁主教グリスワルド師父は、事件直後に出した声明文の中で「わたしは憤怒や報復という感情を覚えないわけではありませんが、そのように彼らに立ち向かうことは、わたしが消滅と克服を祈り求める暴力そのものを永続させることになる」と訴えておられます。わたしたちもこの総裁主教と思いを一つにして、犠牲となられたすべての人々の魂の平安ために、悲しみに打ちひしがれている人々が、神さまの慰めとまことの希望を見出すことができるために、またこの「テロ」によって生じた憎しみの感情が、別の生き方への招きとして、人々に受けとめられるために、祈りましょう。

 この「テロ」に対して、わたしたちは、わたしたちの国の戦争の歴史から、今後の歩みを見通してゆく必要があると思います。アジア諸国の人々を苦しみに陥れた日本の数々の侵略・加害行為は、人間の尊厳への破壊と暴力に他なりませんでした。この罪を思う時、わたしたちは、切実に、キリストの和解の福音に立たなければならないことを覚えます。また沖縄・広島・長崎における被害と加害の歴史からも、「目には目を」の「報復」の考え方、また生き方は、真の平和を創り出すことへとつながらないことを学びます。わたしたちは、先の悲惨な戦争の経験を踏まえ、平和憲法を持つことによって、国として武力による紛争解決の道を取らないことを決意したのです。

 現在、アメリカ政府は、この「テロ」に対して強力に「報復」の準備を進めています。日本政府もこれに呼応して、平和憲法を逸脱し、自衛隊派遣などによる「軍事協力」を推し進めようとしています。もちろん、いのちを脅かす「テロ」を根絶するために、国際社会が一致協力して取り組むことは必要です。しかし、それは憲法にあるように、武力ではなく、非暴力による解決をこそ目指してゆかなければなりません。

 そして何より、わたしたちの主イエス・キリストが、憎み合い裁き合うのではなく、関わり合うすべての人々と「互いに愛し合いなさい」と命じられ、自らも「和解」のために、人々に仕え、生き、死なれたということの中に、わたしたちの歩むべき道が示されています。教会はこの生き方に召されている者の交わりの場です。今こそ、暴力の連鎖を断ち切る時です。決して「テロ」への報復と根絶を口実とする戦争に加担する者となってはいけません。

 わたしたちが置かれた各々の地で、キリストの和解の道を実践してゆきましょう。