NSKK 日本聖公会 東京教区
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現代人にとっての誘惑

主教 植田仁太郎

 教会にとって最も大切な日である「復活祭」は、今年は四月一二日です。従って、この三月は、ずっとその復活祭の準備の季節となります。古来それは四十日間の禁欲と断食を守る日々として尊ばれてきました。

  けれども、その規律は、イエス・キリストご自身が、復活という出来事の前にそのように過ごされたから、というわけではありません。イエス・キリストが、いよいよ人々を教え人々にご自身を顕わされる人生を始められる前に、四十日間を荒れ野で過ごされ、サタンの誘惑に身をさらされた、という聖書の記述に基づいています。

  イエス・キリストに従う私たちも、荒れ野での生活という困難さを追体験し、その中で立ち現れてくるであろう、人間をおとしめる様々な誘惑を、しか(・・)と受けとめましょう―そういう季節です。

  あらゆるまじめな宗教は、信仰者が、物欲や性欲のとりことなることを戒めます。欲におぼれることが人間の尊厳を失うこととなり、ひいては社会を乱す行動に走ることになる、というのがいわば人類の知恵でもあるでしょう。しかし、古来からの宗教上の戒律や、近代以前まで尊ばれてきた人類の古典的知恵から“解放”されることになった現代人にとって、誘惑とは、物欲・性欲に走ること以上に、みずからが選び取ったり学んだりした価値観そのものが誘惑でしょう。

  みずからがもっともだと了解できる理由付けと、それに基づく行為を正当化することこそ一番の誘惑でしょう。みずからの正当性を常に主張したくなり、それによって他者を受け入れなくなってしまうことこそ、最も強力な誘惑でしょう。それが一番自分に都合がよい在り方ですから。

  だから、キリスト者は常に祈ります。「私たちを誘惑におちいらせないで下さい」と。