聖路加国際大学 聖ルカ礼拝堂

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2024年9月8日(聖霊降臨後第16主日)(2024/09/10)

チャプレン ヨナ 成成鍾司祭
「 眉唾 」

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天を仰いで深く息をつき、
その人に向かって、
「エッファタ」と言われた。

これは、「開け」という意味である。

(マルコ7:34)

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<福音書> マルコによる福音書 7章31~37節


それからまた、イエスはティルスの地方を去り、
シドンを経てデカポリス地方を通り抜け、
ガリラヤ湖へやって来られた。

人々は耳が聞こえず舌の回らない人を連れて来て、
その上に手を置いてくださるようにと願った。

そこで、イエスはこの人だけを群衆の中から連れ出し、
指をその両耳に差し入れ、
それから唾をつけてその舌に触れられた。

そして、天を仰いで深く息をつき、その人に向かって、
「エッファタ」と言われた。

これは、「開け」という意味である。

すると、たちまち耳が開き、舌のもつれが解け、
はっきり話すことができるようになった。

イエスは人々に、だれにもこのことを話してはいけない、
と口止めをされた。

しかし、イエスが口止めをされればされるほど、
人々はかえってますます言い広めた。

そして、すっかり驚いて言った。

「この方のなさったことはすべて、すばらしい。
 耳の聞こえない人を聞こえるようにし、
 口の利けない人を話せるようにしてくださる。」



<メッセージ>

「眉唾」や「眉唾物」という言葉があります。何かが信じがたく怪しいと感じられることを指します。例えば、できすぎて胡散臭い話や信憑性に欠けた情報のこと、さらにはその疑わしいことに騙されないように用心することを意味します。元々は江戸時代から日常会話で使われていた「眉に唾をつける」という表現が、明治時代に入って短縮されたようです。眉唾や眉唾物の由来には諸説ありますが、二つがよく知られています。一つは、迷信から由来しますが、眉に唾をつければキツネやタヌキに化かされないという言い伝えからきた説です。昔、キツネやタヌキは、人を化かす時に眉毛の毛の数を数えると言われていたそうです。そのため、眉に唾をつけ固めて数を数えられないようにすれば騙されることもないという考えから由来します。もう一つの説は、平安時代の武将藤原秀郷が、現在の滋賀県にある三上山で大ムカデを退治した伝説によります。大ムカデの噴く炎で藤原の眉毛が焼かれそうになった時、自分の唾を眉毛につけてこれをしのぎ、さらに弓矢にも唾をつけて射り大ムカデを退治したという内容です。

このように信じがたい迷信や荒唐無稽な出来事を由来として眉唾というユニークな表現が生まれました。その背後には民衆の生活全般に浸透していた唾についての俗信的な考えがあったとみられます。それは、古来より唾には魔物を退けたり、自分を保護し癒したりする不思議な力があると信じられていたということです。今の時代にもその名残があります。例えば、足がしびれた時におでこに唾をつけたり、蚊などに刺された部位に唾をつけたりする行為もその延長線上で理解することができます。唾に不思議な力があるという理解は世界的にあり、聖書の世界でも見られますが今日の福音書がその代表的な例です。
今日の福音書によりますと、キリストは耳が聞こえず口の利けない人を癒す際に、ご自分の唾を使います。唾を手につけて人の舌に触れ、「エッファタ」(開けという意味)と言われると、たちまち耳が開き、舌のもつれが解けて話すことができるようになりました。ところが、ここで注目すべきところは、キリストがなぜ唾を使ったのか、唾にはどのような力があったのかということではありません。唾は単に当時の慣習的なこととして用いただけであって、唾自体に力があるわけではないのでそれに惑わされではなりません。まさにそれは眉唾であって、むしろキリストが伝えようとされた御心は「エッファタ」という言葉にあります。唾はそのために用いられた道具に過ぎません。

では、開けという意味の「エッファタ」は、誰に向けて語られた言葉なのでしょうか。聖書の殆どがそうであるように、ここで言う「耳が聞こえず口の利けない人」(32節)は特定な誰かではなく、まさに私たち一人ひとりを示しています。いつの間にか、自分という世界に閉じこもって、耳が聞こえず口が利けない状態に陥ってしまった私たち、それゆえ聞くべきことを聞かず言うべきことを言わない私たちのことなのです。御声を聞いてそれを延べ伝えることをアイデンティティとしている信仰者ではなく、自分独自の経験、価値観、知識というイデオロギーの信奉者になってしまっている私たち自身に他ならないわけです。そういった意味で、「エッファタ」は、私たち一人ひとりに自らを開くようにと声を掛けられた神様の問いかけなのでありましょう。



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