聖歌集改訂委員会 委員長 主教 森 紀旦
 
[出版にあたって]
聖歌集改訂委員会が1994年の総会で立てられました。そのときの作業計画は、2004年の予定で本格的な改訂聖歌集を刊行し、その試用版を2000年をめどに出版するというものでした。委員会は「皆で作る聖歌集」を目指し、鋭意作業に取り掛かり、これまで実に多くの方々のご協力、ご助言を得て、作業を進めてまいりました。また同時に「聖歌集改訂ニュース」を初め、「聖公会新聞」その他のメディアを通じ、作業の内容、進捗状況を広くお知らせしてきました。かなり困難を伴う7年間でしたが、ようやくここに試用版を発行できましたことを感謝しております。試用版の特徴についてお話いたしましよう。

現在使用されている古今聖歌集(以下「現行聖歌集」と略称)は、日本聖公会宣教100年記念を期して改正された祈祷書とともに、1959年に刊行されました。その格調ある「古今聖歌集 序」にも記されていますように、日本聖公会は長い聖歌集の歴史を持ち、明治時代より幾多の改訂を経て、現行聖歌集へと至りました。その変遷の中で次第に整い、初めて『古今聖歌集』という歌集名となったのは1902(明治35)年でした。その後現行聖歌集まで、1922(大正11)年発行の『改訂 古今聖歌集』が長期間にわたり使用されましたので、それを覚えている方も多いと思われます。

[これまでの流れ]
これまでの流れを見てみますと、現行聖歌集に至るまで、『讃美歌』やその他の諸教派の聖歌集の改訂とも関わりをもちつつ作業がなされてきました。その過程で、海外のその時々の聖歌を収める真剣な努力がなされたことはうかがえますが、改訂内容は「良歌佳曲」「勝れたもの」(現行の「序」5,6ページ)ということであり、理念はあまり明確化されなかったのか、残念ながらそのあたりがあまり知らされてこなかったように思われます。しかしながら、エキュメニカル・ムーブメント(教会一致運動)と並んで20世紀を特徴づけるリタージカル・ムーブメント(礼拝・典礼改革運動)は礼拝音楽の研究から開始されたように、今世紀半ばからの海外の新聖歌集はその成果を着々と取り入れ、これまでにない内容の革新を見せ始めたのです。それは当然のことながら、日本の諸教派聖歌集の抜本的な改訂を促しました。私たちの日本聖公会もそのような大きなうねりの中で『古今聖歌集増補版'95』(以下「増補版」と略称)を発行したのです。そこで示され、さらに展開される世界の動向に沿った理念による今回の『古今聖歌集』改訂は、まさに"100年ぶりの大改訂"と言えましょう。

[改訂の考え方]
本格版は、現行聖歌集のかなりの部分を収め、さらに新しい聖歌が多数採用されます。その基準としては、現行祈祷書の使用に資すること、福音の現代的な理解の上に立つものである、ということです。神への礼拝は祈祷書によってささげられますので、主日の聖餐式を初めとし、朝夕の礼拝、入信(洗礼・堅信・初陪餐)の式、聖婚式、葬送の式その他の諸礼拝のための聖歌が備えられます。しかも、聖餐式の旧約聖書、使徒書、福音書にふさわしいもの、さらに当然のことですが、信仰生活を導く教会暦を十分考慮して作成されたものが収められています。また、これらの聖歌は、全世界の聖公会(アングリカン・コミュニオン)と同じ礼拝の考え方の上に立っていますので、それらの教会とすばらしい聖歌を豊かに共有すると共に、日本という地における聖公会として独自のものも含むことになります。超教派的な聖歌を巡る動きの中に、また、神のみ心である具体的な教会一致の動きの中に、わたしたちはこの聖歌集によって貢献したいと望んでいます。
現代の福音理解に基づく聖歌であることも不可欠です。人間の罪とキリストによる神の救いへの感謝、教会の礼拝共同体性、全力を尽くして神を愛し、隣人を愛するというキリストの教え、神が創造され愛され支配しておられる世界という考え方、その世界における正義と平和の確立、被造物をみ心にかなった姿に戻すこと、人間の尊厳への重視、世界的規模のまた日本の私たちから生み出された聖歌の採集、子どもも含め、神の家族が歌える内容、言葉、神の愛する世界の人々とも共有できる聖歌、現行聖歌集のすばらしい伝統ある聖歌の保持、継承、他教派でも歌われるもの、………です(『増補版』5−7ページも参照)。したがって試用版には、現行聖歌集の中で、このような考え方を原語では元来もっている聖歌を新たに訳し直したもの、世界の聖公会、諸教派、諸共同体の聖歌集から選んだもの、公募によって採用されたものなどが入れられています。詩の文体としては、口語を中心にして作業をしていますが、詩には当然すばらしい文語のものもあります。また聖歌は定型詩ですので、口語体の中に多少の文語体が用いられたとき、全体が見事に生かされる場合もあります。そのあたりにもご注目ください。

音楽については、教会がその歴史の中で保持し続けてきた伝統的なもの(単旋律聖歌やコラール、四声体のいわゆる賛美歌様式)、人々の中で親しまれてきた民謡的なもの、また今日的な和声とリズムを持ったものもあります。これにともない、伴奏楽器の多様さを想定した曲譜を採り入れています。そして何より、これからの礼拝の多様性を見据えつつ、個々の教会の会衆の状況(規模、楽器や聖歌隊の有無など)もふまえて、それらに対応できるように努めて編集しています。

[試用版から本格版へ]
次に試用版は、2006年に予定されている本格版改訂聖歌集(約600曲)から抜粋されたものを提供する、という形式を採っていることです。そのことは目次に表現されています。これは本格版の目次中の主要なものです。また、「イエスの地上の生涯」は当然「福音書」の題材を扱っています。今回、「旧約聖書」からは「アブラハムとモーセの召命」、「使徒書」からは「初め(アルファ)と終わり(オメガ)」に言及した聖歌を収めてみましたが、それら以外の箇所でも事項索引から必要な聖歌が探し出せるようになっています。三年周期聖餐式聖書日課を採用している海外諸教会では、聖書日課を念頭においた毎主日の聖歌表を作成し、聖歌集に載せています。そのようなことにわたしたちも関心をもっていきましょう。


本格版が出版されるまで、この試用版は、現行聖歌集、増補版と共に、礼拝において、またいろいろな集まりで、徹底して使用され、その結果の感想、提案、批判をお返しいただくことを目指して発行されるものです。どうか、全体を何回も使ってください。歌ってください。皆で力を結集し、み心にかなった改訂聖歌集を作っていきましょう。


2001年8月15日(主の母聖マリヤ日)