聖餐式聖書日課関係
福音書
イエスの地上の生涯
2097  アダムの背きを
In Adam we have all been one
Martin Franzmann (1907-1976)
ST. NICHOLAS
Holdroyd's The Spiritual Man's Companion, 1753
adapt. Scottosh Psalmody, 1854
(訳詩 堀口香代子)
 迷い、見失われた人類に対する神の救いを主題に、創世記のアダムの原罪まで遡って、キリストの救いにあずかる共同体の一致を祈る神学的な聖歌です。
 聖書的イメージを緻密に積み重ねた原詩は、まず「わたしたちは皆、アダムがあの夕べに、探しておられたあなたから逃げたように、神に逆らった者として一つである」(1節) という認識から出発して、「あなたから逃げたわたしたちは皆神を見失い、兄弟さえも失った」(2節 ) と、カインとアベルの事件 [創世記4章] を述べます。「にもかかわらず、あなたは強い愛でわたしたちを探し続け、独り子をお送りになった。わたしたちは『一つになりなさい』という羊飼いの声を聴く」(3節) と、アダムによって一つの罪の共同体であったわたしたちが、羊飼いなるみ子によって愛の共同体への転換点の訪れを歌います。それは、「わたしたちがあなたに背いたときでさえ、まったく変わることなくわたしたちを愛し、お救いになった偉大な羊飼い」(4節) なのであり、その方を仰ぎ見ながら、「聖霊を送ってわたしたちに真理を教え、自己中心の誘惑から自由にし、あなたにおいて一つにしてください」(5節 )との祈願をもって締めくくります。
 このように、神の救いの歴史を説いた原詩から、この訳詩は、短い中にも大切なメッセージを伝えています。ことに、わたしたちを「一つに」と3、5節(原詩では1、3、5節)で繰り返し歌われるところに、作者の思いが表現されています。
 大斎節にふさわしい聖歌ですが、巻末の「『試用版』聖書日課対応聖歌番号表」(205頁以下)でもわかるように、A年・特定7の使徒書 [ロマ5:15-19 ] や、C年・特定19の福音書「見失った羊」のたとえ [ルカ15:1-10] にも適切な内容です。
 作詩のマーティン・フランズマンは、米国の大学や神学校で教えてきた聖書学者で、晩年は英国で福音ルーテル教会の牧師となりました。1930年代からドイツ語聖歌の英訳や創作聖歌を書き始め、神学者らしい論理的で、聖書的根拠に基づく、重厚で綿密な創作詩を得意としていました。
 曲は、250年あまり昔に生まれた古いものですが、その後スコットランドの詩編歌に採り入れられ、『HA&M』の第3版(1875年)で今の形に近い曲になって用いられたと考えられます。1969年版『HA&M』の後に出版された増補版に、現在の詩が付けられました。
 短調の旋律にわたしたちの罪を表現しつつ、最後の力強いフレーズをもって、神の確かな救いを感じさせます。弱々しくならないように、しっかりと歌いたい聖歌です。
 余談になりますが、『HA&M』は1861年に、英国聖公会の「祈祷書」に準拠して出版された最初の聖歌集です。編集委員長ヘンリー・ベイカー( Henry Williams Baker, 1821-1877) と音楽主査のW・H・ モンク(2010参照)を中心に、多くの英国聖公会の聖職者や音楽家が携わった聖歌集であり、会衆の信仰の表現として、永年にわたり広く親しまれてきましたが、2000年“Common Worship”として改訂された「祈祷書」とともに、同年『HA&M』は、“Common Praise”として生まれ変わりました。
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