「 蟻の法則 」
ユダ(Judas Iscariot)、これはキリストの歴史の中、最も呪われた名前かもしれません。キリストを裏切った張本人だからです。キリストには漁師、医者、革命家、税理士など様々な職業、また違う性格の持ち主で構成されている12弟子がいました。多様性が活かされている素晴らしいグループだったのですが、その中のひとりユダがキリストを銀貨30両で売ってしまったのです。キリストはユダが自分を裏切りことを知らなかったのでしょうか。神の子だから最初から知っていたとすればなぜ彼をメンバーに入れたのでしょうか。自分に害を与える者や組織に損失を招く者であることを知っていたら最初から仲間に入れないのが世の常です。しかし、なぜかキリストは彼を省くことはしませんでした。では、そのことにはどのような意味が込められているのでしょうか。
元々は社会生物学や経済学の用語として、今は幅広い分野で用いられている「働き蟻の法則」という理論があります。蟻の生態を研究して分かったことですが、蟻の社会は共同体全体が2:6:2という割合で構成されています。つまり、働き蟻の2割はリーダの役割を担って熱心に働き、また2割はだらけて組織の反対者のような身振りを見せ、他の6割はどちらでもない脇役をするように、組織全体が2:6:2の割合で構成されているのです。ところが、何か大きな出来事によって組織の構成状況が変わっても2:6:2の割合は変わらないそうです。例えば、熱心に働く蟻だけを集めておいたら、全ての蟻が熱心に働くのではなく、その中の一部がだらけて反対者のような身振りを見せ始め、最終的には2:6:2の割合に分かれます。また反対にだらけている蟻だけを集めておいても、その中の一部が熱心に働き出し、やはり2:6:2の割合を作り出すようになるのです。
この働き蟻の法則から、私たちはユダが12弟子の仲間として最初の段階から存在したことについての一つの意味を得ることができます。蟻の社会が持つ組織の論理が、たとえ組織に反対する2割がいなくなっても新しい反対者が出てきてその2割を埋めるように、人間社会のあらゆる組織の中にもそのような傾向があるということです。つまり、いかなる組織や共同体でも、何ごとにせよあまり関心を示さない6割以外にも、対立や分裂を企む2割が潜んでいるわけです。それは組織にとっては避けられない状況です。そうだとして、それが悪いことだけなのか、決してそうではありません。反対する2割は、全体を構成している一部分として、他の8割に批判を述べることを通して刺激や緊張感を与え、間違いを起こさないように省みる心を与えるのです。人間の組織も、それが学校であろうと教会であろうと、ほとんどは同じ脈絡にあると言えます。
そのようなことについて教会では「闇の神秘」「罪の神秘」というふうに表現することもあります。闇や罪というのは、例えば自分の弱点や過ちなどはあまり望ましくない部分ではありますけれども、むしろそれが私たちを恵みへと導いてくれることもあるという理解です。そのことについて使徒聖パウロ(5年–67年)は、ローマの信徒への手紙の中で「罪が増したところには、恵みはなおいっそう満ちあふれている。」(5:20)と語りました。まるで、月が欠けると少しずつ満ちていくように、また暗闇が深くなればなるほど夜が明ける時が近づいたことの証になるように、私たちの内外に存在する闇や罪というのも、私たちの成長を促す一つの要素でもあるのです。だからこそ神秘だと言うわけです。
世の中の全てのことには、プラスの部分とマイナスの部分が混在しています。闇と光どちらか一方だけということはありません。人間の営みとして共同体や組織も、自然の営みも、身の回りに起こる出来事も、ましてや自分自身もそうなのです。そのような理解を持って自分のことを省み、人々と接する一日でありますように願います。
<福音書> マタイによる福音書 9章35節~10章8節
35イエスは町や村を残らず回って、会堂で教え、御国の福音を宣べ伝え、ありとあらゆる病気や患いをいやされた。 36また、群衆が飼い主のいない羊のように弱り果て、打ちひしがれているのを見て、深く憐れまれた。 37そこで、弟子たちに言われた。「収穫は多いが、働き手が少ない。 38だから、収穫のために働き手を送ってくださるように、収穫の主に願いなさい。」
1イエスは十二人の弟子を呼び寄せ、汚れた霊に対する権能をお授けになった。汚れた霊を追い出し、あらゆる病気や患いをいやすためであった。 2十二使徒の名は次のとおりである。まずペトロと呼ばれるシモンとその兄弟アンデレ、ゼベダイの子ヤコブとその兄弟ヨハネ、 3フィリポとバルトロマイ、トマスと徴税人のマタイ、アルファイの子ヤコブとタダイ、 4熱心党のシモン、それにイエスを裏切ったイスカリオテのユダである。5イエスはこの十二人を派遣するにあたり、次のように命じられた。「異邦人の道に行ってはならない。また、サマリア人の町に入ってはならない。 6むしろ、イスラエルの家の失われた羊のところへ行きなさい。 7行って、『天の国は近づいた』と宣べ伝えなさい。 8病人をいやし、死者を生き返らせ、重い皮膚病を患っている人を清くし、悪霊を追い払いなさい。ただで受けたのだから、ただで与えなさい。






