聖書朗読の構造 ― 聖餐式の場合 ―
一、 「旧約聖書」「使徒書」「福音書」の関係
 このパンフレットは聖書朗読の実践に関心を持っています。あまり理論はいらないのですが、それでも毎主日、実際に読んでいる聖書朗読が、どのような意図で選ばれているのか、多少理解しておくことは奉仕の準備をさらに深めるかもしれません。現行祈祷書の聖書日課配分についてごく簡単に触れておきたいと思います。現在の祈祷書の聖餐式には「旧約聖書」、「使徒書」、「福音書」の三つの朗読があります。
 話をわかりやすくするために、祝日の一つ「洗礼者聖ヨハネ誕生日」(六月二四日)の聖餐式日課を例にとってみましょう。『日本聖公会祈祷書』(一九九〇)の二四七頁にこの日の特祷と聖書日課が載っています。
旧約聖書  イザヤ書       第四〇章一節から一一節
使徒書   使徒言行録      第一三章一六節から二六節
福音書   ルカによる福音書  第一章五七節から八〇節
 言うまでもなく、福音書はその日の主題、洗礼者ヨハネの誕生の場面です。その日の福音の出来事の中心です(「原型」)。それに対して旧約聖書ではイザヤ書第四〇章が読まれます。
 「呼びかける声がある。主のために、荒れ野に道を備え…」という預言者イザヤの言葉です。神様の人類に対する救いのご計画(救済史)の中で、あらかじめ示された言葉(「予型」)で、多くの場合「預言」と言っていいと思います。その預言の成就、神様の救いの計画の実現として、主イエスの福音の出来事があるという理解がここにはあります。
 さて「使徒書」では、パウロがアンティオキアの人々に向かってヨハネの洗礼に触れながら、悔い改めと主イエスへの信仰を説いています。福音に対して、弟子たちがどのように宣教し生きたかが語られているのです(「対型」)。
 教会暦の中の、主だった期節、祝日には、この「旧約聖書」「使徒書」「福音書」の関係がかなりはっきり示されています。ローマ・カトリック教会の用語では「秘義選択朗読」と言われます。その日の主題で一貫しているのです。
 一方、その他の期節には、その日の特別な福音書が読まれるというよりは、A年「マタイ」、B年「マルコ」、C年「ルカ」の各福音書が原則として継続的に読まれていきます(継続あるいは準継続朗読)。そして各主日ごとに、その福音書に対応すると考えられる「旧約聖書」が選ばれています。しかし「使徒書」は、福音書に対応してというよりは、こちらもある書を継続あるいは準継続して読んでいきます。ですから必ずしも完全に同一主題が語られているとは言えないのですが、しかし聖書の主題が、根本的に神の国についての教えであると理解すれば、全然無関係の箇所などないと言えるでしょう。