『奉仕職シリーズ』第三巻が発行のはこびとなり嬉しく思います。今回は高橋宏幸司祭が「霊性」について執筆されています。人間の能力に過剰なほど自信を持っている現代社会では、「霊性」が教会のあらゆる奉仕職の根源になる領域であることを特に強調しなければなりません。したがって、このテーマこそこの 『奉仕職シリーズ』の第一巻になるべきものだったと言えます。
キリスト者の奉仕職は単なる自主的なボランティアーの働きではありません。ボランティアーとは自分の自由意志を動機とする働きです。キリスト者の奉仕職は神の呼びかけに応答することです。自分では行いたくないと思っていることさへも、聖霊はうながすことがあることも聖書を読めばよく分かります。私たちは、聖霊のうながしに応答しないことも出来ますし、拒否することも出来ます。聖霊のうながしに応答の決意をさせるのは人間の霊です。神の霊(聖霊)のうながしと人間の霊の応答の相互作用が霊性です。ですからキリスト者の奉仕職は単なる人間の自由意志による決断が動機ではなく、うながしに対する服従の決断が動機になります。
ペトロは十字架の道を行くイエスに対して「主よ、あなたのためなら命を捨てます」と断言します。これは自分の意志での断言でした。この断言を守ることが出来なかったのは有名な話です。しかし、ペトロはイエスに「サタン、引き下がれ」と言われながら、また何度も失敗しながらイエスのあとを、「主よ、どこに行くのですか」と従って行きました。もはや、自分の意志や決断ではなく、イエスの霊(聖霊)とペトロの霊が相互に呼応していたのです。臆病で軽率なペトロが殉教までイエスに従って行けたのは、ペトロの意志ではなく、聖霊のうながしに応答することの出来たペトロの霊性です。
奉仕職に必要なのは、意志以上に霊性です。個人の決断や自由意志を尊重する傾向の強い現代のキリスト者が修得しなければならないものは「霊性」です。教会の奉仕職を強化するためにこの小冊子が読まれ、学習されることを期待します。
                日本聖公会東京教区 主教 ヨハネ 竹田 眞