月報「コイノニア」
2009年6月号 No.310


《聖書を飛び出したイエス様・その七》
     がんばれ、がんばれ

アンジェラ・アキ「手紙〜拝啓十五の君へ〜」から

司祭 ミカエル 藤原健久

 それから、イエスは…12人を呼び寄せ、二人ずつ組にして遣わすことにされた。…さて、使徒たちはイエスのところに集まってきて、自分たちが行ったことや教えたことを残らず報告した。(マルコ6・6-30)


 この歌は、人気歌手のアンジェラ・アキさんが、「NHK全国学校音楽コンクール・中学生の部」の課題曲として作ったものです。彼女が課題曲を依頼された丁度そのとき、お母さんから手紙が届きました。それは、10代のアンジェラさんが、30歳の自分に充てた手紙で、「30歳になったら渡して」とお母さんにお願いしていたものだそうです。手紙には、毎日の生活における細かい悩みや愚痴が、延々と記されていました。手紙の事をすっかり忘れていたアンジェラさんは、手紙を読んでいる内に、中学生の頃の自分が思い出されてきました。彼女は日本人の父とアメリカ人の母の間に生まれ、子どもの頃を日本の田舎で過ごしました。そこで容姿の違いから周りの子どもたちに、からかわれたり、いじめられたりしていたのだそうです。その後、アメリカに渡り、たくさんの苦労をして、歌手になりました。今、手紙を読むと、中学生の時に自分の人生を左右するかのように思われていた悩みが、「何でそんなに悩んでいたんだろう」と思えるようになり、今の自分から中学生の自分に「そんなに悩まなくて良いよ、自分を信じて未来を切り開いて行けば良いよ」と言ってあげたくなりました。そのような思いから生まれたのがこの曲です。この歌の中には、中学生の繊細で傷つきやすい心が綴られています。「今、負けそうで泣きそうで、消えてしまいそうな僕は、誰の言葉を信じ歩けばいいの?ひとつしかないこの胸が何度もバラバラに割れて、苦しい中で今を生きている。」若い純粋な心に、大人が優しく語り掛けます。「自分とは何でどこへ向かうべきか、問い続ければ見えてくる。自分の声を信じ歩けば良いの。いつの時代も悲しみを避けては通れないけれど、笑顔を見せて今を生きていこう。」
 この曲は多くの中学生たちに歌われ、彼らの共感を呼びました。そこで合唱コンクールに参加する中学生たちとアンジェラさんとが、直接出会い、語り合うドキュメンタリーをNHKが作りました。その内容をまとめた本を読むと、自分の胸の内を語る中学生と、それをしっかりと受け止めるアンジェラさんとが交わる姿に、感動します。「自分の思いを分かってくれる人がいる、私を受け止めてくれる人がいる」この事が、どれほど中学生を元気づけ、支えているかが分かります。
 ブルース歌手のシオンという人の歌に「がんばれ、がんばれ」という作品があります。遠く離れて暮らす子どもを気遣った親の心を綴った歌だと思われますが、その中に次のような歌詞があります。「いつでもここにいるから、帰ってきて良いんだよ。そう思えばあと一つ二つ、できる我慢も増えるでしょ。がんばれ、がんばれ。」「がんばれ」という言葉は時に残酷です。疲れ切った人を、更に追いつめ苦しめる言葉となり得ます。この言葉が人を励ますのは、唯一、具体的な愛がある時だけです。自分を分かってくれる人がいる、何があっても受け止めてくれる人がいる、そして自分が帰る場所で自分を待ってくれている人がいる。そのような、自分を愛してくれる人が語ったときだけ、「がんばれ」と言う言葉は、その本来の力を発揮することができるのです。
 私は今まで多くの人に、「教会はあなたのもう一つの家です。いつでも帰ってきて良いところです」と言ってきました。それは決して間違いではありません。イエス様はいつも私たちを受け止めてくださいます。礼拝堂での祈りを通して、私たちは神様と親しく交わります。けれども、見えない神様との交わりだけでなく、具体的な人との交わりも、とても大切だと思います。教会の魅力の一つは、人との温かい交わりです。誰かが教会に来られたときに「良く来たね、待ってたよ」と言ってくれる人がいれば、教会はますます魅力的になるでしょう。具体的に人を愛する人となる、教会につながる人全てがその使命を負っていますが、まずは私が、愛の人にならなければならないと、思いを新たにしました。


諸国語聖書朗読

――聖霊降臨日――

5月31日は聖霊降臨日。復活日・降誕日と並ぶ三大祝日で、「主は昇天の後、公会に聖霊を降し、み力によってすべての国に福音を宣べ伝えさせられた」(聖餐準備六)教会の誕生日・宣教開始の日です。プロセッションを行い、聖歌隊とハンドベルクワイアがご奉仕しました。
 聖霊降臨に関する記事は新約聖書の『使徒言行録』2章1節〜42節にみられます。それによれば、復活したイエスは弟子たちに「近いうちに聖霊が降る」ことを告げて天に昇り、それから10日後、ユダヤ教の五旬祭の日に使徒とその他の弟子たちが集まって祈っていると、激しい風のような音が聞こえ、天から炎のような舌が降り、使徒たちは聖霊に満たされ、さまざまな国の言葉で語り始めました。地中海世界全域からディアスポラのユダヤ人たちがエルサレムに集まっていましたが、使徒たちが自分の地域の言葉で語っているのを聞いて驚き、ペトロが語るイエスの死と復活の意味について聞き、多くの人が洗礼を受け、使徒たちのグループに加わりました。
 この使徒言行録の朗読は今年も多言語聖書朗読で行なわれました。もはやマリア教会名物とも言えるものでそれぞれの言葉で一斉に読み始める図は迫力さえ感じました。朗読してくださったのは、日本語(本文)・宇野祐次さん、英語(文語)・上野久子さん、英語(口語)・立石恭子さん、アラビア語・ムハナドさん、ロシア語・越後幸恵さん、インドネシア語・浦地愛さん、ギリシア語・福原正和さん、ドイツ語・江口詩織さん、タイ語・江口翠さん、フランス語・叶マリコさん(上野さんの友人)、です。このうち、アラビア語で読んでくださったムハナドさんは、ヨルダンからの留学生。聖公会の「エルサレム教区」の信徒。エルサレム教区は大変歴史と伝統のある教区です。アラブ圏と言えばイスラム教のイメージが強いですが、クリスチャンも多く、その多くは大変歴史と伝統のある教会です。
皆さん素晴らしい朗読で、それぞれの言語の響きの美しさに感動しました。


投稿
「JOCSの使用済み切手運動
   ――みんなで生きるために」

サラ 立石恭子

 子どもプロジェクトに関わって四ヶ月、子どもたちと何かいい事ができないかとあれこれ考えていると、やはりJOCS会員である夫が切手運動への協力を思いつき、藤原先生にご相談しましたところ、早速六月の委員会に議題として提出して下さいました。この機会に表記について説明させて戴きます。
 JOCS(日本キリスト教海外医療協力会)は来年で設立50周年を迎えます。当初、第二次世界大戦の痛手から立ち上がりつつあった日本では、亡国病と云われた結核が、化学療法やBCG接種、更に衛生環境の目ざましい改善のお蔭で、どうやら鎮圧されたと云う状況でしたが、アジア、アフリカでは医療や保健の分野でも立ち遅れていたのです。
 1960年の設立以来、JOCSはこれらの国々への医療従事者派遣や、逆に海外からの研修生の受け入れ、或いは現地での養成に力を尽くして来ました。最近では新たな感染症であるエイズや、また母子保健への取り組みが課題ですが、ネパールで大きな働きをされた故岩村昇先生を通じて伝えられた、「みんなで生きるために」という現地の青年の言葉が今や活動の原点となっています。これに必要な経費は、会費や募金、また心ある方たちからの寄付などに依ってまかなわれていますが、使用済み切手の収集による収益もその一つです。これは早くからJOCSの運動として定着、四五年の歴史を持つに至りました。
 2005年には収入の一割強を占めていましたが、最近ではEメイルの普及により郵便を利用する人が減り、ひいては切手の集まりも悪くなっています。「たかが古切手」と思われがちですが仲々どうして、これが確かな威力を発揮してくれるのです。封筒に貼ってある切手をきちんと切り揃えて事務局に送ると(送料はこっち持ち)ボランティアの方たちが整理して段ボール箱に詰め,7.5キロの切手ボックスに仕立てます。これを1キロ1600円で切手コレクターさんが引き取って下さいます。切手そのものだけでなく、押された消し印の日付も喜ばれるそうです。因みに、切手ボックス一箱はウガンダの看護学校で二ヶ月分の授業料になります。「くずかご行きになりかねない使用済み切手で僕もわたしも国際協力を!」を合言葉に、子どもたちと切手切りの仕事ができればいいなと願っています。


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