月報「コイノニア」
2012年3月号 No.343


《聖書を飛び出したイエス様・その40》
   善良であり続けること

リュドミラ・ウリツカヤ『通訳ダニエル・シュタイン』から

司祭 ミカエル 藤原健久

それからイエスは、人の子は必ず多くの苦しみを受け、長老、祭司長、律法学者たちから排斥されて殺され、三日の後に復活することになっている、と弟子たちに教え始められた。しかも、そのことをはっきりとお話になった。
                  (マルコ8・31)

 以前から信徒の方に紹介して頂きながら、なかなか読めず、今回、東北への往復の電車の中でようやく読めました。
 一人のカトリック神父の生涯を描いた小説です。ポーランドのユダヤ人一家に生まれ、奇跡的に虐殺から逃れたダニエルは、ナチスに捕らえられ、出自を隠し、通訳として働き、その中で入手した情報を元に、ユダヤ人脱走計画を成功させます。その後、逃亡中に身を寄せた修道院でイエス・キリストを信じ、洗礼を受け、戦後、イスラエルに渡り、カトリックの神父として活躍します。彼は修道院の中に留まるのではなく、イスラエルで生活する様々な宗教、民族の人々の中にあって、貧しく、傷つき、悩む人々のために、自分の持てる限りの力を尽くしてかけずり回り、彼らに惜しみない愛を注ぎ続けます。
 戦時中に大勢のユダヤ人を助けた「英雄」であると同時に、ユダヤ教と絶えず緊張関係にあったキリスト教の神父であるということが、彼の立ち位置を複雑なものにしています。また、ユダヤ教とキリスト教との和解を求め、様々な宗教の人々を受け入れたため、教会からも問題視されます。最後には、彼が愛し、助けた人に、「裏切り」のような仕打ちを受け、窮地にたたされてゆきます。
 これは、実在の神父をモデルにしたものです。作者は、大勢の人々に取材をし、この神父の生涯を、小説として描き出してゆきました。
 この神父の善良さが、小説の中で輝いています。人々から裏切られても、誤解を受けても、迫害されても、彼は人々を助け、愛することを止めません。絶えず前向きで、希望を持って、人を愛します。このような善良な人がこの世に存在する、と思うだけで、私の心は嬉しくなり、希望を持つことが出来ます。
 彼の善良さが際だつのは、彼が生きている世界が、善良ではないからです。彼は、前半生を戦争中のヨーロッパで、後半生を民族・宗教紛争の絶えないイスラエルで過ごしました。悪意と暴力、それに死がごく身近にある世界です。
 平和な社会の中で善良に生きることは、さほど難しいことではありません。けれども、そうでない社会の中で善良であり続けることは並大抵のことではありません。善良に生きることは、世の中の流れに逆らうことであり、善良であり続ければ、必然的に自らの身に迫害を受けることになるのです。自らが受ける暴力、最悪の場合には死、そのことを自覚した上で善良であり続けること。それはどれほどの恐怖を伴うものでしょう。善良な人の笑顔には、キリストの十字架が隠されているのです。
 私たちの社会も、多くの、けれども割合としては決して多くない、善良な人々の懸命な奉仕によって成り立っていると言う面があります。それは素晴らしく、有り難いことです。けれども私たちが目指すべきは、個人の善良さが目立たない社会、善良な人が犠牲を払わなくて良い社会の実現だと思います。


ひと  ヨシュア 岩本翔太くん

いま、日本聖公会の青年がおもしろい!

 京都聖マリア教会は、全国の教会の中でも青年の活動が活発な事で有名です。併設するボーイスカウト京都第二四団の活動も活発なこともあり、芦生キャンプ場を中心に野外活動を繰り広げるとともに、京都教区の青年行事にも活発に参加、教区青年達をリードしてきています。
 昨年の東日本大震災のあと、東北へボランティアに行ってくれた岩本翔太くんが現地で非常にすばらしい活動をしてくれています。彼は、教区震災対策室現地担当者として、京都教区から派遣されて以来、仙台の元修女会「ナザレの家」に住み込み、長期にわたって被災者のために奉仕を続けてくれています。9月からは、日本聖公会東日本大震災被災者支援「いっしょに歩こう!プロジェクト」の仙台オフィスのスタッフに就任し、引き続き献身的な活動をしてくれています。これについてはこれまで何度もコイノニア等でも取り上げていますし、教区のホームページにも「京都教区震災対策室ブログ」http://nskk-kytsinsai.blogspot.jp/に細かく報告をしてくれております。また、夏にはマリアのジュニアチャーチのキャンプに東北の青年を招待するきっかけを作ってくれたり、全国青年井戸端会議を京都で開いたりと、教区を越えて管区レベルで青年達の取りまとめまでやってくれています。
 このたび、岩本君らを中心とした日本聖公会の青年達が、「日本聖公会青年グループU26【ゆーじろー】」を立ち上げました。青年の教会離れが進む中で、教会青年として、ともに活動し、何を大事にしてゆけるか等を考えるいい機会になる集まりです。

投稿
日本聖公会青年グループ「U26」について

ヨシュア 岩本翔太

2011年八月、日本聖公会青年グループU26【ゆーじろー】が、京都で行われた日本聖公会全国青年井戸端会議にて発足しました。教会に青年がいないと言われ私たちになにができるかと考えた結果、いま集まれる青年で集まり活動を通して仲間を全国に増やしていきたいと考えました。名前の由来は18歳から26歳の青年グループ、アンダー26歳の頭文字「U」をとってつけました。18歳は高校卒業の年であり、26歳は大学卒業から約三年間程度と最大でも八歳しか違わないいわゆる同世代と呼ばれる青年たちで聖公会を盛り上げたいという意図が込められています。
 グループ発足後約半年後の2月17日(金)、18日(土)、千葉県市川市にある市川少年自然の家にて日本全国から聖公会に関わっている「ゆーじろー」世代の未信徒,信徒合わせて35名(京都教区から9名)が集まり、話し合ったりスポーツをして分かち合う事ができました。この集まりのテーマは「教会に行く理由、行かない理由」でした。
 みんなそれぞれ違うバックグラウンドで生きてきたなか、自分にとって教会という場所はどのような場所であるかと改めて考えさせられました。また、この集会により全国の青年と交わりがもてた事を感謝しています。とくに、私は京都教区のキャンプに参加した事も無く京都に知り合いが全くいなかったですがこの集会でたくさんの青年と知り合い、分かち合うことができたことは本当に感謝しています。これを機に全国的にする活動もそうですが、教区、教会レベルでももっと協力し合い身近なところでもできることがあるのではないかとも思いました。
 今回の集会は青年たちだけでできたのではなくたくさんの方のお祈りと協力により無事成功できたことを本当に感謝しています。マリア教会に関わる青年やこれから青年になる子ども達とも分かち合えたらもっと教会が身近な存在になり今以上に教会という場所が活気づくと感じました。


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