2005年10月16日  聖霊降臨後第22主日 (A年)


司祭 ミカエル 藤原健久

誠ある言葉

 この物語の最後には、面白いことが書かれています。「彼らはこれを聞いて驚き、イエスをその場に残して立ち去った。」悪意を持って語りかけた人が、イエス様の言葉を聞いて、驚いて逃げ去ったというのです。何に驚いたのでしょうか。
 イエス様の言葉はたった一言です。「皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返しなさい。」「皇帝のもの」という言葉には、彼らの地上での営み全てが詰まっています。それは、お金のことであり、政治の事であり、自分が偉くなりたいという思いや、イエス様へのねたみや、イエス様を陥れようというずるい気持ちなどです。彼らは神様の事を、言葉の上では語っても、心の中は、この地上でのことで一杯です。そんな彼らに、イエス様は「神のものは神に返せ」と言われます。「返せ」と言われても、なければ返せません。だから、この言葉は「あなたの中に神様のものがあるんだ」というメッセージでもあるのです。この悪い人々に対して、「あなたの心の中は、この世のことで一杯になっている、しかし、あなたの中にも神様から頂いた、すばらしいものがあるんだ。この世のことに心を奪われてしまわず、神様に立ち返れ」と、イエス様は語りかけられたのではないでしょうか。イエス様には下心はありません。イエス様の言葉の中に、相手を言い負かそうという思いは、少しも入っていません。ただあるのは、「あなたは神様に愛されているんだ」という強い思いだけなのです。
 イエス様は、きっと、ずっと誠ある言葉のみを語られたのだと思います。どれだけ悪意に囲まれようと、どれだけ人から傷つけられようと、口を開けば、誠ある言葉しか語られなかったのでしょう。それは、十字架の時までそうでした。十字架の上のイエス様の言葉を思い出します。「父よ、彼らをお赦しください。自分が何をしているのか知らないのです。」これも、人々の罪を裁く言葉ではありません。こんなに悪いことをしている人たちなのに、彼らは決して芯から悪いのではなく、彼らの中にも神様から頂いた本当の命があるんだ、という事を知らせてくれる言葉なのです。