司祭　ダニエル　大�怐@勝

「ぶどう園の労働者」のたとえ【マタイによる福音書　２０：１−１６】

　朝早くから働きづめに働いた労働者への報酬が１デナリオンです。これはイエス様の時代の一日の平均賃金でした。その収入が労働者にとっては大家族を支える１日生活費になります。彼らは、朝早くから町の広場に立って今日の仕事を探します。仕事の声がかからなければその日の収入はありません。
　ぶどう園の主人は、早朝、９時、１２時、３時と広場に行って、その時点でまだ仕事のなかった人を雇います。そして最後に、午後の５時です、もう夕方です。１日の仕事もそろそろ終わりに近づいた時間です。その時、誰にも雇ってもらえず、今日の仕事を求めて広場にまだ立っている人がいたのです。その人をも主人は雇い入れます。
　このたとえの最初に、「天の国は次のようにたとえられる｣とイエス様は言われます。このぶどう園は｢天の国(神の国)｣の象徴です。朝早くから雇われ１日中きっちり仕事をした労働者は、さしずめ選ばれた有能な人物です。この人物は、律法に忠実であろうとするファリサイ派を象徴しています。それに対して、後から雇われた人、ことに夕方になって雇われた人は、それまでの１日中、誰からも見向きされなかった人々です。これは罪人を暗示しています。もちろん雇い主であるぶどう園の主人は神様です。
こう考えると、このたとえは、神様は、正しい行いをしていると自負しているファリサイ派の人々をも招かれていますが、罪人と呼ばれ、社会的に弱く辛い立場におかれていた人々も憐れみをもって招いておられることを物語っているのです。
　１日の仕事が終わって、最後に雇われた人から順に賃金が支払われました。そして全員が１デナリオンの報酬を受けました。朝早くから働いていた人からは不平・不満が出ます。「最後に来たこの連中は、１時間しか働きませんでした。まる１日、暑い中を辛抱して働いたわたしたちと、この連中とを同じ扱いにするとは｣と言います。１日中働いた人と、たった１時間しか働かなかった人とが同じ賃金なのですから、その不平・不満はよくわかります。労働の量によって報酬が決まると考えるなら、不満が出るのは当然です。
　不平を言う労働者に対して、雇い主であるぶどう園の主人は、私は何も不公平なことをしていない。あなた達には約束通りの１デナリオン払ったではないか。あの後から来た労働者にも、同じように私は１デナリオン支払ってやりたいのだ、と答えたのです。この返答は、人間に対する神様の愛の深さを教えてくれます。神様の愛は、この人にはこれだけ、あの人にはその半分だけ与えるというものではありません。労働の報酬である１デナリオンは神様の愛です。それは1人1人の人間の功績や働きに対する分配ではなく、恵みとして神様から一方的に与えられるものです。多く働いた人の流した汗は、確かに尊いものです。しかし、神様からの恵みは流した汗の大小で区別されません。等しくみんなに分け与えられるのです。
　夕方の５時になっても、まだ広場に立っている人の｢だれも雇ってくれないのです｣という諦めに似た言葉は痛切に響きます。その彼らを憐れみ、｢あなたたちもぶどう園に行きなさい｣と声をかけてくださり、全く同じ恵みの報酬を与えてくださるのが神様です。