2012年11月18日      聖霊降臨後第25主日(B年)

 

司祭 バルナバ 小林 聡

希望は終わらない【ダニエル12:1−13】

 ダニエル書が書かれたのは恐らく、パレスチナのイスラエル人たちが、シリア帝国の弾圧を受けていた時期だと思われます。
 シリア帝国の弾圧はそれまでの緩やかな寛容政策とは異なり、イスラエル人たちの文化・宗教を奪うものでありました。イスラエルの人々が長らく大切にしてきた宗教性はかつてないほどの弾圧を受け、久しく救いを示す預言者の出現もありませんでした。当時最も恐れられたのが、シリア王アンティオコス4世で神の顕現と言う意味のエピファネスと呼ばれていました。イスラエル人たちの神殿であるエルサレム神殿に異教の神ゼウスの像が建てられるなど、その弾圧は激しくなるばかりでした。そんな中からマタティア一家の決起が起こります。このマカイバイ戦争と呼ばれる軍事蜂起がダニエル書が書かれた背景にあったとされています。中身は何百年も前のバビロニア捕囚の中で起こった出来事として書かれていますが、それだけ、シリア帝国の弾圧が厳しかったことを思わせます。
 ダニエル書には弾圧の中で死んでいく者たちが、ただ屈辱の死では終わらない復活信仰が描かれています。
 「お前の民、あの書に記された人々は。多くの者が地の塵の中の眠りから目覚める。ある者は永遠の生命に入り/ある者は永久に続く恥と憎悪の的となる。目覚めた人々は大空の光のように輝き/多くの者の救いとなった人々は/とこしえに星と輝く。」
 ここで言われている人々は、無念の中で死に、塵灰の中で貶められていった人々でした。目覚めや光、星と言った言葉は、その者たちの復活、死では終わらない命をしめしています。
 ダニエル書は希望を語る中で、現実の弾圧にこの世の力ではなく、神の知恵と思いを込めて抵抗しています。民衆の言葉であるアラム語と呼ばれる言葉で書かれていることは、急速にヘレニズム化し、ギリシャ語化してきたシリア帝国のあり方に、人々の魂の言葉を持って抵抗しようとしてきたあらわれに他なりません。
 私たちは、ダニエル書が描いてきた希望を、今しっかりと受け継ぐ者となりたいと思います。ダニエル書は未だ弾圧の続く中で書き終えられています。しかし、確かに、救い主である幼子イエスの誕生をさし示す、希望の書であります。今はまだ苦難の中にある人々にとって、暗闇のただ中に確かに光る星の輝きが、このダニエル書そのものであることを共に覚えたいと思います。