2015年11月15日      聖霊降臨後第25主日(B年)

 

司祭 エッサイ 矢萩新一

「惑わされないように」【マルコによる福音書13章14〜23節】

 マルコによる福音書13章は小黙示録と呼ばれ、イエスさまによる終末に関する預言の教えが記されています。「預言」と聞くと、未来の事柄を先回りして予告してくれることを思い浮かべますが、聖書の預言は、神さまから預かったメッセージを告げることです。ですから、世の終わりがいつ来るのか、どんな形でくるのかということを教えているのではなく、いつその時が来てもよいように備えていなさいというのが、イエスさまが神さまから預かった言葉という意味での預言です。
 イエスさまがご自分で聖書を書かれたわけではありませんので、マルコさんが自分の生きている時代を背景に、イエスさまの言葉を思い出しながら書いているのがマルコによる福音書だと言われています。イエスさまが十字架に死なれてから、ユダヤでは心の拠り所であった神殿が崩壊し、ユダヤ戦争によってローマ帝国からの支配を受けていたという時代に書かれています。「憎むべき破壊者」「今後も決してないほどの苦難が来る」「偽メシアや偽預言者が現れて…惑わそうとする」。そんな言葉を並べられると、この世のしがらみや持ち物すべてを棄てて山に逃げるしかない。そんな混乱の世の中で、苦難の期間を縮めて下さるのは神さましかいない、このような日が来たときは、だまされないように気をつけていなさいと語ります。私たちの生きる現代社会にあっても、様々な混乱や争いが耐え間なく続いています。軍備こそが他国の脅威から身を守ると信じて止みませんし、誰が見ても人の手に負えない核兵器や原発を扱えると豪語します。心の平和が崩壊する事件や事故も耐えません。
 イエスさまは、平和をもたらす為にこの世に来られました。弱い立場にある人々に寄り添い、言葉と行いによって平和実現の方法を教えられました。イエスさまの示された平和は、互いに愛し合う関係、ゆるし合う関係、互いの信頼のうちに主体的に生きていくということです。戦争の現実に打ちひしがれている人々、重い病気や困難に出会い苦しんでいる人々、生活が極度に苦しめられている人々…信頼やゆるし合う心を見失った人々の叫びを聞く耳を持つ必要があります。破壊者や偽メシアを見分ける目を養わなければなりません。嘘や虚栄、情報の操作やまやかしに左右され振り回されていることがないでしょうか。私たちはすべての「いのち」を大切にするイエスさまにしっかりと繋がっていたいと思います。そして、突然やってくる苦難に対処できる知恵、破壊者を見分ける目、誘惑に陥らない強い心、困難な状況におかれた人々へ向けるべき優しく柔軟な心を与えてくださいと希望をもって祈る者でありたいと思います。