聖路加国際大学 聖ルカ礼拝堂

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2024年11月3日(聖霊降臨後第24主日)(2024/11/06)

チャプレン ヨナ 成成鍾 司祭
「 愛 」(マルコ12:28-34)

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「隣人を自分のように愛しなさい。」
(マルコ12:31)

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「 愛 」

20世紀を代表する歴史家ヨハン・ホイジンガ(Johan Huizinga、1872-1945)は、人類は何かを作る人、工作する人として「ホモ・ファーベル(homo faber)」であるが、それより先に遊ぶ人として「ホモ・ルーデンス(Homo ludens)」であったと語りました。つまり、人間にとって遊びとは、何かを作りながら築き上げた文明や文化よりも古い営みであるということです。また人類学者たちの研究によりますと、ゲームやクイズなどの遊びは宗教とも掛け離すことのできない営みとして人類の精神史と共に進化してきたそうです。今日の福音書は、その遊び、ことに言語ゲームがキリスト教にどのような影響を与えたのかについて伝えています。

国を始め、社会の全ての組織はルールを持っています。国のルールは憲法に基づいていますし、学校や会社のような組織はそれぞれの規則を持っています。宗教も例外ではなく、キリスト教の源流であるユダヤ教には律法というものがあります。ユダヤ教の律法は、10個の戒めであるモーセの十戒から始まりました。そして時間が経つにつれて段々と数が増え、大きな項目だけで613個もの戒めを持つようになりました。613個の戒めは「しなさい」という命令の戒め248個、また「するな」という禁令の戒め365個が合わさってできています。ユダヤ人の思想によりますと、248とは人間の体を構成するあらゆる部分全体を象徴する数字であり、365とは1年の日数のことを指す数字です。つまり、神様がしなさいと命じられたことは全身で実践するということ、また1年の365日間、神様が禁じられたことは一つも破ってはならない、という意味が込められているわけです。

これは素晴らしい意味を持つ律法ではありますが、数が多すぎるため人々にとっては複雑で理解しにくいという不満がありました。それゆえ、ユダヤ教の神学者たちは、律法の核心だけを絞って人々に説明する言語ゲームのようなことを行いました。今日の福音書の中、キリストが律法学者から「あらゆる戒めのうちで、どれが第一でしょうか」(28節)という質問を受けたのもその一環です。キリストは、律法の613項目の戒めの核心を一言に絞って「神様を愛することと隣人を愛すること」(30‐31節参考)と表現されました。つまり、神様と人間に関する戒めによって構成されている律法というのは、他ならぬ愛によって成り立ち、愛を通して具現されると語られたわけです。これは、愛があらゆる信仰的なルールの基礎であり完成でもある、愛がなければ信仰自体は何の意味もなくなる、さらには信仰を超えて世の全てにおいて愛こそが全てであるというお話でもあるのです。キリストは愛そのものとして愛の生涯を送られましたが、皆さんはその愛についてどのようなイメージを持っているでしょうか。

言うまでもなく愛は恋と異なります。愛は恋を包む幅広い概念であって、恐らく世の中に愛より多様な理解と意味を持つ言葉はないかもしれません。人や思想によって、また置かれている状況によってさまざまな理解があり、これだけが正しいとは言えないのが愛というものなのです。では皆さんにとって愛とは何でしょうか。キリストのように、皆さんを言語ゲームに誘いたいと思います。それは、キリストが信仰を超えてあらゆるものの核心だと語られた愛というものを、今度は自分に当てはめて自分の言葉で表現してみるということです。今日一日、皆さんが頭の中で普段何気なくイメージしている愛について考え、それを短い言葉で表現してみてください。例えば『星の王子さま』の作者、サン・テグジュペリ(Saint-Exupéry、1900–1944)は“愛はお互いに見つめ合うことではなく、共に同じ方向を見つめることである”という有名な言葉を残しましたが、皆さんだったらどのように表現しますでしょうか。今日という二度と来ない新たな一日を愛と共に過ごしてみてください。 


<聖書>マルコ福音書12:28-34

28彼らの議論を聞いていた一人の律法学者が進み出、イエスが立派にお答えになったのを見て、尋ねた。「あらゆる掟のうちで、どれが第一でしょうか。」 29イエスはお答えになった。「第一の掟は、これである。『イスラエルよ、聞け、わたしたちの神である主は、唯一の主である。 30心を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くし、力を尽くして、あなたの神である主を愛しなさい。』 31第二の掟は、これである。『隣人を自分のように愛しなさい。』この二つにまさる掟はほかにない。」 32律法学者はイエスに言った。「先生、おっしゃるとおりです。『神は唯一である。ほかに神はない』とおっしゃったのは、本当です。 33そして、『心を尽くし、知恵を尽くし、力を尽くして神を愛し、また隣人を自分のように愛する』ということは、どんな焼き尽くす献げ物やいけにえよりも優れています。」 34イエスは律法学者が適切な答えをしたのを見て、「あなたは、神の国から遠くない」と言われた。もはや、あえて質問する者はなかった。

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