聖路加国際大学 聖ルカ礼拝堂

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2025年5月18日(復活後第5主日)(2025/05/16)

チャプレン ヨナ 成成鍾 司祭
「 魂を殺す 」

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「わたしがあなたがたを愛したように、あなたがたも互いに愛し合いなさい。」

(ヨハネ31:34)

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人類の最大の理念は「愛」です。宗教や思想、人種や文化を超えて健全な理念の根底には愛があるのです。慈悲・思いやり・大切にする・優しさなど多様に表現される愛は、人類の発展や進化に優先します。人類にとって最も大切なのは何かを突き詰めていくと、それは人々を大切にする心、すなわち愛であるからです。キリスト教は愛の宗教です。キリストは亡くなる前、「私があなたがたを愛したように、あなたがたも互いに愛し合いなさい。」(34節)という言葉を以て、弟子たちに「愛し合う」ことを新しい戒めとして与えられました。しかしながら愛することは簡単なことではありません。愛すること、しかも互いに愛し合うことは、どのようにすれば実行できるのでしょうか。

愛することには大前提がありますが、それは自分自身について知ることです。自分について知ることこそが愛のスタート時点なのです。自分について知るとき、つまり自分の良いところも悪いところも知って受け入れたときにありのままの自分を愛せるようになります。自分を愛することができたときに始めて他の人も愛せるようになります。そして自分と隣人を愛することができたときに、目に見えない存在である神様も愛せるようになります。そのように自分について知ること、本来一人の人間として自分がどのような存在なのかについて知ること、それが自分を愛し、進んでは誰かと愛し合うための大前提になるのです。

鼻先に感じられる香りに魅了されたある鹿がいました。あまりにも魅力的なので、鹿は香りの元を求めて山や川を渡り歩きながら探しましたが、それがどこから香ってくるのかを知ることはできませんでした。世のあちらこちらをさ迷った挙句の果て、鹿は深い絶望に陥ってしまい絶壁から飛び降りて死んでしまいました。ところが、鹿の体が悲惨にも砕けると麝香(ジャコウ)の香りが谷全体に広がりました。まさに鹿が魅了されたその香りでした。残念なことに鹿は、自分自身が魅力的な香りを持っている麝香鹿であることを知らなかったのです。魅力的な香りが他ではなく自分の中から出ていることを知らなかったこと、それが鹿の悲劇だったのです。残念なことに今の時代の多くの人も同じような人生を送っています。

ではどのようにすれば、自分が魅力のある大切な存在であることを知ることができるのでしょうか。結論から申しますと、それは自分の中心に神様を据えることで可能になります。私たちが大切で尊い存在であることは、尊い神様が私たちの中におられるからです。つまり、聖書の創世記に記されているように、私たちひとり一人は神様にかたどられて、神様から命を頂いて創造されているからなのです。それゆえ、大切な存在として生き続けたいのであれば、神様を人生の片隅ではなくて、自分の中心に招かなくてはなりません。自分の心と魂、また生活の中心を神様に譲らなくてはならないわけです。そうすることによって、全ての源である神様に導かれ、神様と共に生きられるようになります。それこそが自分を大切にし、自分を愛することの秘訣なのです。

南アメリカのグアテマラという国のある部族は、愛のことを自分の魂を殺すこと、また神様を愛することを自分の魂を神様のために殺すこと、というふうに表現します。つまり愛することは、自分が頼っている見解・知識・経験・習慣・固定観念などを殺しながら、少しずつ空になる存在の中心に神様を据えるということなのです。存在の中心を神様に捧げることによって、聖パウロが告白したように「古い自分は死んでキリストによって新しくなった者」(コリントの信徒への手紙Ⅱ5:17参照)として復活の人生を送ることができるようになります。そのように本来人間という存在は、神様を通して、神様と共に、神様によって生きる尊い存在であることについて知ることができるとき、ようやく私たちはありのままの自分を愛することも、また人々や神様と互いに愛し合うこともできるようになるのです。





<福音書> ヨハネによる福音書 13章31~35節

31さて、ユダが出て行くと、イエスは言われた。「今や、人の子は栄光を受けた。神も人の子によって栄光をお受けになった。 32神が人の子によって栄光をお受けになったのであれば、神も御自身によって人の子に栄光をお与えになる。しかも、すぐにお与えになる。 33子たちよ、いましばらく、わたしはあなたがたと共にいる。あなたがたはわたしを捜すだろう。『わたしが行く所にあなたたちは来ることができない』とユダヤ人たちに言ったように、今、あなたがたにも同じことを言っておく。 34あなたがたに新しい掟を与える。互いに愛し合いなさい。わたしがあなたがたを愛したように、あなたがたも互いに愛し合いなさい。 35互いに愛し合うならば、それによってあなたがたがわたしの弟子であることを、皆が知るようになる。」

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