聖路加国際大学 聖ルカ礼拝堂

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2025年10月19日(聖霊降臨第19主日)(2025/10/23)

「 へその緒 」

臍帯(Umbilical cord)とも言うへその緒は、胎児とお母さんの胎盤とをつなぐ白い管状の組織です。へその緒は初めからお母さんのお腹にあるものではなく、妊娠8週頃に新しく作られて赤ちゃんの出産までの命と成長を支える臓器です。お母さんの体から胎児に対して酸素や栄養素が送られ、胎児からは二酸化炭素や老廃物が胎盤に送り返されます。個人差はありますが、へその緒の平均的な長さは約50cm、太さは直径が1.5 cm程度です。胎児が生まれたら、医師や助産婦がへその緒を赤ちゃんの方に3cmほど残して切り離します。

日本を含め一部の国には、へその緒や乳歯などを大切に保管する風習があります。へその緒が大切にされてきた理由は、基本的には赤ちゃんの誕生を記念し成長を希望するためです。ところが、古来の民間信仰では、へその緒が胎児とお母さんのつなぎ、命を支えることを意味するため、特別な力があると信じられてきました。それゆえ、大病に陥った際にはへその緒を煎じて飲ませると病が治るという言い習わしがあり、地域によってはへその緒を神社でお清めしてもらい、その後神棚に奉る場合もあります。また、お母さんや本人が死亡した際に棺桶にへその緒を入れてあげる習慣が守られている地方もあります。

へその緒は胎児が成長していく上で最も重要なものです。大事な役割を担っているへその緒であるから出産後も丁重に扱われているのですが、私たちにはもう一つ大事にしなくてはならないへその緒があります。全ての人には、命が宿った後に設けられるへその緒だけではなく、命を生きるためのもう一つのへその緒が与えられています。それは、魂のへその緒です。へその緒がお母さんとつながっているものだとしますと、魂のへその緒は神様とつながっているものです。神様とつながって人の魂を維持・成長・進化へと導いてくれています。その魂のへその緒のことを、キリスト教では別の言葉で祈りというふうに言うこともあります。神様とつながっている魂のへその緒として、祈りの大事さはキリスト教だけでなく宗教の違いを超えて唱えられています。祈りは、宗教や霊性伝統を問わず命の源である神様とつながる唯一無二の営みだと言っても過言ではないので、それこそ魂のへその緒だと言えるのです。

聖書の中には祈ることの大切さについて伝えている箇所が山ほどありますが、今日の福音書もその一つです。キリストは祈ること、ことに希望を失わずに祈り続けることの大切さについて教えられました。ネットやマスメディアの発達により、朝起きてから何度も気を落としそうな残虐なニュースに接する私たちの心は、今はもう失望や落胆に慣れてしまい無感覚になっているかもしれません。戦争と虐殺、暴力と犯罪、貪欲と利己主義が蔓延し、心の世界も弱肉強食の論理によって支配される状況であるけれども、いやそういう汚れきった世界であるからこそ、人類は絶えず希望を生み出して祈り続けるのです。

祈りは、一方は私たちにもう一方は神様につながっている魂のへその緒です。それゆえ、私たちが手を放すことがあっても、神様の方が放すことは決してないということを、私たちは心に刻んでおく必要があります。最後に、希望を失わずに祈り続ける人の道しるべとなってくれる祈祷文を一つ紹介いたします。アメリカの神学者であるラインホルド・ニーバー(Reinhold Niebuhr、1892-1971)によって作成され、今はアルコール依存症克服のための組織である「AA」の集会や「12段階プログラム」でも使用されている「平静の祈り」です。“神よ、私に変えることのできないものは、それを素直に受け容れるような心の平和を。変えることのできるものは、それを変える勇気を。そして変えられるものと変えられないものとを、見極める知恵を。この私にお与えください。”


<福音書> ルカによる福音書 18章1~8a 節

1イエスは、気を落とさずに絶えず祈らなければならないことを教えるために、弟子たちにたとえを話された。 2「ある町に、神を畏れず人を人とも思わない裁判官がいた。 3ところが、その町に一人のやもめがいて、裁判官のところに来ては、『相手を裁いて、わたしを守ってください』と言っていた。 4裁判官は、しばらくの間は取り合おうとしなかった。しかし、その後に考えた。『自分は神など畏れないし、人を人とも思わない。 5しかし、あのやもめは、うるさくてかなわないから、彼女のために裁判をしてやろう。さもないと、ひっきりなしにやって来て、わたしをさんざんな目に遭わすにちがいない。』」 6それから、主は言われた。「この不正な裁判官の言いぐさを聞きなさい。 7まして神は、昼も夜も叫び求めている選ばれた人たちのために裁きを行わずに、彼らをいつまでもほうっておかれることがあろうか。 8言っておくが、神は速やかに裁いてくださる。

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