聖路加国際大学 聖ルカ礼拝堂

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2025年10月26日(聖霊降臨第20主日)(2025/10/30)

「 知らないうちに・・・ 」

美しい角を持っている鹿がいました。鹿はいつも水に映っている自分の姿を見て満足し、自分の角を自慢する毎日を過ごしました。しかし鹿にも気にいらない部分がありました。それは傷だらけで無様な足のことでした。そのある日、近くで狩人の銃の音と猟犬の吠える声が聞こえてきました。驚いた鹿は一目散に逃げ始めました。鹿は逃げながら丈夫で素早い足があって良かったと思いました。ところが思わぬことが起こりました。なんと木の枝に自慢の美しい角が引っ掛かって動けなくなってしまったのです。すると、それを待っていたかのように猟犬が走って来て鹿に噛みつきました。鹿は血を流しながらこう言いました。“角さえなかったら、もっと長く生きられたのに…。”

何ごとにおいても自慢と傲慢は、私たちを死に追いやる落とし穴です。ことに人々との交わりや神様との関わりである信仰において一番気を付けなくてはならないことは、自分のことを自慢してしまうこと、自分でなければできないというふうに傲慢になることです。聖アウグスティヌス(Aurelius Augustinus、354-430)に、ある人が“神様を信じることにおいて一番に大切なことは何でしょうか。”と聞きました。すると彼は“謙虚です。”と答えました。“それなら二番目は何でしょうか。”“それも謙虚です。”“それならば三番目は何でしょうか。”“それはもっと腰を低くして謙虚になることです。”と答えたそうです。

今日の福音書に登場する二人を通してもそれについて知ることができます。ファリサイ派の人は他の人々の前に堂々と立って見せかけるような姿勢で祈りました。その一方で徴税人は人々に近づくこともせず祈るために頭を上げて天を仰ぎ見ることもしませんでした。二人の姿勢は正反対だったのですが、一人は自分の信仰を自慢しながら祈り、もう一人は自ら罪人だと告白し懺悔するかのような姿勢を取りました。この二人に対してキリストは徴税人の祈りが正しくて、彼が正しい信仰者だと言われました。「実るほど頭を垂れる稲穂かな」ということわざのように、神様を信じる心も熟すればするほど自分のことを表に出して見せようとはしなくなります。自慢する瞬間祈りは地に落ち、さらに傲慢になる瞬間その信仰は死んでしまいます。
頭を上げることもできずに謙虚に祈った徴税人のような信仰者のほうが、自己存在の根源は忘れて宇宙の原理だけを理解しようとしている哲学者より、聖書全部を暗記しているけれども愛は持っていない神学者より、隣人のことは考えていないのに口だけうまい社会活動家より、一人の信仰者としても一人の人間としても素晴らしいのです。アッシジの聖フランチェスコ(Francesco d'Assisi、1182-1226)は、誰かに“どうしたらそのように献身的な奉仕ができるのでしょうか。”と問われると、いつもこう答えたそうです。“多分、神様が世の中で一番弱くて、ろくでなしを探していた時に、私を見つけたと思います。そのような者である私だから、神様の業のために用いられたとしても自慢なんかできないでしょう。”

ではいかがでしょうか、もしかしたら自分の中には以下のようなものが潜んでいるのではないでしょうか。例えば、仕事や奉仕などの働きの中に自分だからできるという高ぶる心、人々との交わりの中で自分は正しいと自慢する姿勢、また神様との関係の中に謙虚の仮面をかぶっている傲慢な思い、これらのことがいつの間にか内面に植えられて大きくなっているのではないでしょうか。自慢は自分も知らないうちに漏れ出すものであり、傲慢は埃のように目に見えない所で積もってしまうものです。知らないうちに自慢や傲慢に命を奪われてしまうこともありますので、そうならないように絶えず自分の内面を省察していかなくてはなりません。


<福音書> ルカによる福音書 18章9~14節

9自分は正しい人間だとうぬぼれて、他人を見下している人々に対しても、イエスは次のたとえを話された。 10「二人の人が祈るために神殿に上った。一人はファリサイ派の人で、もう一人は徴税人だった。 11ファリサイ派の人は立って、心の中でこのように祈った。『神様、わたしはほかの人たちのように、奪い取る者、不正な者、姦通を犯す者でなく、また、この徴税人のような者でもないことを感謝します。 12わたしは週に二度断食し、全収入の十分の一を献げています。』 13ところが、徴税人は遠くに立って、目を天に上げようともせず、胸を打ちながら言った。『神様、罪人のわたしを憐れんでください。』 14言っておくが、義とされて家に帰ったのは、この人であって、あのファリサイ派の人ではない。だれでも高ぶる者は低くされ、へりくだる者は高められる。」



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