「 おとぎ話 」
「おとぎ話」という言葉があります。子どもに語って聞かせるための昔話や童話の一つとして、空想的で現実離れした架空の話を指します。漢字では「御伽話・御伽噺」となりますが、「伽」という字には話し相手になって退屈を慰めたり付き添って世話をしたりするという意味があります。つまり、おとぎ話には架空の要素だけではなく、その根底に人々への思いやりの心が込められているのです。聖書にもおとぎ話のような話がたくさんあります。「主の変容」は代表的なものですが、それは山の上で祈っていたキリストが太陽のように煌々たる姿へと変容されたことを指します。「主の変容」物語は、古くから大斎節前主日に朗読される伝統が受け継がれていますが、それにはこの幻の話がキリストだけに限るものではないという意味が込められています。実は私たちにも変容の可能性が与えられているのです。「灰の水曜日(Ash Wednesday)」から40日間の大斎節を過ごし復活日を迎える私たちも、キリストのように輝く姿へと変わることができるのです。
ある旅人が大きな宝石店に入って、探している宝石があるかのように陳列されている宝石を注意深く見回しました。濃い緑色のエメラルド、鮮やかな赤色のルビー、無色透明だけれども美しいダイアモンドなどの宝石がショーケースの中で輝いていました。ところがその華麗な宝石たちの中に全然光沢がなく、むしろ暗くも感じられる石が一つありました。旅人はなぜその石が宝石の間に置いてあるのかなと思いながら“この石は他の宝石のように美しくありませんね。”と言いました。するとオーナーは微笑みながら“そう見えますよね。でもちょっと待ってください。面白いことをお見せしましょう。”と言って、ショーケースからその石を出して両手のひらで包みました。暫くしてからオーナーは手を開いてその石を見せてくれました。すると驚くことに石は言い表せないほどの輝きを持った宝石に変わっていました。旅人がその変化に驚き不思議がっているのを見ると、オーナーは次のように説明してくれました。“これは我々が鋭敏な宝石だと呼んでいるオパールです。希望や幸福という意味を持つオパールは人の体温によって色が変わる特徴を持っています。この宝石の美しさを引き出すためには、人の手で包み込む行為が必要とされます。”その話を聞いて感激した旅人は、自分のお土産としてそのオパールを買いました。
実際にオパールは、その中に青・緑・赤・紫などさまざまな色を持っている宝石として、体温を当てたり光へ向きを変えたりすることによって、まるで虹のような色彩の変化がもたらされます。オパールのように、私たちもいろんな色を持っています。表面的に見える色だけではなく、内面の深いところにも潜んでいるのです。それらは過去の出来事や現在の状況に沿って、例えば悲しみや喜び、苦しみや安らぎ、寂しさや慰め、疎外感や達成感などによって生じるいろいろな色です。そしてその色の組み合わせによって世界に一つだけの個人の色彩が自己存在に色付くようになるのです。その潜んでいる色彩を雨上がりの虹のように引き出して輝かせる方法というのは、オパールのように暖かく包み込むことや光に当てることです。つまり、自分自身をただショーケースの中において置くのではなく、自分の中には虹のように輝く可能性が潜んでいることを自覚し、両手で暖かく包み込むようにありのままの自分を自分自身が認めて受け入れ、光を当てて慰めるということなのです。すると輝きは自然に深い内面からにじみ出て表に現れ、私たちもオパールのように誰かに喜びと希望を与える存在になれます。
復活の前に設けられている大斎節は、まさにそのために与えられたひと時です。自分自身と向き合う日々を過ごす大斎節は、自分こそがオパールのような存在であるという自覚へと導き、その後、迎える復活日を通して私たちもキリストと共に、その輝く変容の具現へと導かれます。大斎節40日間の変容の旅路の上に神様の助けが豊かにありますようにお祈りいたします。
<福音書> マタイによる福音書 17章1~9節
1六日の後、イエスは、ペトロ、それにヤコブとその兄弟ヨハネだけを連れて、高い山に登られた。 2イエスの姿が彼らの目の前で変わり、顔は太陽のように輝き、服は光のように白くなった。 3見ると、モーセとエリヤが現れ、イエスと語り合っていた。 4ペトロが口をはさんでイエスに言った。「主よ、わたしたちがここにいるのは、すばらしいことです。お望みでしたら、わたしがここに仮小屋を三つ建てましょう。一つはあなたのため、一つはモーセのため、もう一つはエリヤのためです。」 5ペトロがこう話しているうちに、光り輝く雲が彼らを覆った。すると、「これはわたしの愛する子、わたしの心に適う者。これに聞け」という声が雲の中から聞こえた。 6弟子たちはこれを聞いてひれ伏し、非常に恐れた。 7イエスは近づき、彼らに手を触れて言われた。「起きなさい。恐れることはない。」 8彼らが顔を上げて見ると、イエスのほかにはだれもいなかった。
9一同が山を下りるとき、イエスは、「人の子が死者の中から復活するまで、今見たことをだれにも話してはならない」と弟子たちに命じられた。






