聖路加国際大学 聖ルカ礼拝堂

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2026年8月16日(聖霊降臨後第12主日)(2026/08/19)

「パン屑」

聖書には、様々な動物が物語の脇役として登場します。その殆どは純粋と不純、善と悪、従順と反抗などの象徴として用いられ、信仰や道徳的な教えを伝える役目を担います。例えば、羊は従順さや神様の導きを象徴し、反対にやぎは望ましくない特質や邪悪な人々の象徴として用いられます。ライオンは力や威厳、また恐怖の象徴として登場し、蛇はアダムを惑わした呪われた動物とされますが、賢さの象徴としても用いられます。そのように動物はそれぞれ象徴的な意味を持っているのですが、場合によっては神学的な理論を説明するときにも用いられます。

典型的な例として「猫の神学」・「猿の神学」が挙げられますが、これらは猫と猿の生態に見られるそれぞれの親子関係を用いて、信仰と救いについて説明した理論です。猫は親が赤ちゃんの首を咥えて運びますが、反対に猿の場合は赤ちゃんが親のお腹に自分の力でしがみつきます。その異なる姿勢から「猫の神学」は神様の恵みによってのみ救いが決まるということを表し、「猿の神学」は人間の意志に焦点を置き、私たちの信仰的な姿勢や生き方こそが救いを決定づけると説明します。今日の福音書に登場するカナンの女性の信仰的な姿勢は、人間側に比重が置かれている「猿の神学」の典型的な例だと言えます。娘の癒しを求めたカナンの女性は、諦めずに賢く粘り強い信仰的な姿勢を示し、最終的にキリストよって娘の病気も癒されました。

この物語の中にも羊と犬が登場します。娘の癒しを求めたカナンの女性に対して、最初キリストは「私イスラエルの家の失われた羊のところにしか遣わされていない。」(24)と語りました。その頃のキリストにとっては羊に象徴されるユダヤ人だけが救いの対象であるため、あなたのような異邦人は論外だという発言です。カナンの女性がキリストの前にひれ伏して「主よ、私をお助けください。」(25)と再度頼みますと、今度は「子どもたちのパンを取って、小犬たちに投げてやるのは良くない。」(26)と差別的な言葉までも口にしたのです。ここで言う子どもとはユダヤ人のことで、小犬とは異邦人のことを指します。古くからイスラエルにおいて犬は不潔なものの象徴として用いられてきました。ところがそれに対して彼女は「主よ、ごもっともです。でも、小犬も主人の食卓から落ちるパン屑はいただきます。」(27)と答えました。つまり“キリストよ、あなたの恵みは大きいので余ることもあると思います。その欠片でも構いませんから、この小さな私にもお与えください。”と頼んだわけです。これは単に智恵に満ちた答えであるよりは一種の告白だと言えます。人間としての最後のプライドまでも放棄して謙り、娘を癒しを求めて執り成した信仰告白だったのです。するとキリストは「女よ、あなたの信仰は立派だ。あなたの願いどおりになるように。」(28)という言葉を持って彼女の信仰を褒め、娘も癒してくださいました。

古くから教会には「執り成しの祈り」が大事な営みとして重んじられてきました。自分自身のためではなく、他者や世の中のために神様の働きを求める祈りです。英語でintercession と言いますが、それはinter(間・中の意味)+cession(行くの意味)が合わさってできています。つまり人々・共同体・世の中の間に立って相互をつないだり、神様の導きを求めたりする営みが執り成しの祈りなのですが、カナンの女性はその模範を示してくれました。誰にでも似たようなことが起こります。突然の病気に苦しんだり思わぬ出来事に悲しんだりする中、神様の助けを求めることもありますが、いくら祈っても叶えてもらえないと思われることがしばしば起こるのです。もしそのような時にはカナンの女性が示した信仰的な姿勢を思いだすようお勧めいたします。彼女から学べますように、神様は試練や苦難の中にいる私たちの人生をより成熟させ、救いへと導いてくださるのです。てくださるのです。今も誰かのために、カナンの女性として生きているあなたの上に、神様の助けが豊かにありますようにお祈りいたします。


<福音書> マタイによる福音書 15章21~28節

21イエスはそこをたち、ティルスとシドンの地方に行かれた。 22すると、この地に生まれたカナンの女が出て来て、「主よ、ダビデの子よ、わたしを憐れんでください。娘が悪霊にひどく苦しめられています」と叫んだ。 23しかし、イエスは何もお答えにならなかった。そこで、弟子たちが近寄って来て願った。「この女を追い払ってください。叫びながらついて来ますので。」 24イエスは、「わたしは、イスラエルの家の失われた羊のところにしか遣わされていない」とお答えになった。 25しかし、女は来て、イエスの前にひれ伏し、「主よ、どうかお助けください」と言った。 26イエスが、「子供たちのパンを取って小犬にやってはいけない」とお答えになると、 27女は言った。「主よ、ごもっともです。しかし、小犬も主人の食卓から落ちるパン屑はいただくのです。」 28そこで、イエスはお答えになった。「婦人よ、あなたの信仰は立派だ。あなたの願いどおりになるように。」そのとき、娘の病気はいやされた。

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