聖路加国際大学 聖ルカ礼拝堂

今週のメッセージ詳細

今週のメッセージ

TOP > 今週のメッセージ詳細

2026年8月23日(聖霊降臨後第13主日)(2026/08/25)

「群盲象を評す」

「群盲象を評す」という諺があります。目の見えない人が象を触って感想を語り合うことをモチーフにし、物事の一部だけをとって全体が理解できていない視野の狭さや偏見を戒めます。古代インド仏教に由来しますが、多くの宗教や文化で広く用いられています。現代においてもアメリカの詩人ジョン・ゴドフリー・サックス(John Godfrey Saxe、1816-1887)は、以下の「目の見えない男たちと象(The Blind Men and the Elephant)」という詩を残しました。

「ヒンドゥスターン(Hindustān)に6人の男たちがいた。学ぼうという気持ちが強く、象を見に出かけた。全員、目が見えなかったが、じっくり観察すれば心が満たされるだろうと考えていた。最初の男は象に近づいたが、うっかり転んで大きくてがっしりとした脇腹にぶつかり、こう叫んだ。“おやおや、象とは壁のようであるぞ。”2番目の男は牙に触れて大声をあげた。“おお、これはなんと丸くて滑らかで、しかも尖っている。分かったぞ、この象というものは槍のようだ。”3番目の男は象に近づき、手に掴んだのがくねくね動く鼻だったので大胆にこう言った。“なるほど象とはまるでヘビのようだ。”4番目の男は手を伸ばして膝の辺りを熱心に触って思った。“この不思議な獣は、まったくデコボコがない。きっと象とは木のようなものであろう。”5番目の男が触れたのは耳だった。そしてこう言った。“まったく目が見えなくても、何に一番似ているかよく分かったぞ。間違いあるまい。象という生き物は団扇のようであるぞ。”6番目の男は象に手を伸ばすと、すぐにゆらゆら揺れる尻尾を掴み、こう言った。“なるほど、象とは縄のようであるぞ。”それから、ヒンドゥスターンの男たちは長いこと大声で言い争い、それぞれが自分の意見を譲らず言い張るだけだった。それぞれ正しいところもあるが、どれもが間違っているのに。」

今日の福音書でキリストは弟子たちに「人々は、人の子(つまりキリスト)のことを何者だと言っているか。」(13)と問いかけ、それに対して弟子たちが「洗礼者ヨハネだと言う人も、エリヤだという人も、ほかにエレミヤだとか、預言者の一人だと言う人もいます。」(14)と答えました。またキリストには「大工の息子」、「徴税人や罪人の仲間」など、有名な存在になっていくにつれて多くのレッテルが貼られていました。実にこれは「群盲象を評す」を思い起こさせる内容です。人々の声や世の評価というのは、キリストについての部分的な表現ではありますが、キリストという存在全体についての信仰的な表現ではありません。それで今度は「それでは、あなた方は私を何者だと言うのか。」(15)と弟子たちに問いかけられました。キリストは弟子たちに、どう考えているのかではなくどう言うのか、つまりどのように告白するのかについてお聞きになったのです。それにペトロは「あなたはメシア、生ける神の子です。」(16)と告白し、キリストは「あなたは幸いだ。あなたにこのことを現したのは、人間ではなく、天におられる私の父である。」(17)と語られました。つまり、ペトロの返事は、天上の声として真理に触れた者による告白であって、世に溢れる人々の考えや見解ではなかったのです。

詩集『預言者(The Prophet)』で広く知られているハリール・ジブラーン(Kahlil Gibran、1883-1931)の詩「魂の忠告」を通してそれについての理解を深めることができますので紹介いたします。「私の魂が忠告した。舌でも咽喉でもないところから響いてくる声に耳を傾けなさいと。私の魂が忠告した。知らされていない存在から呼ばれた時に、従いますと答えなさいと。今までは、市場から聞こえてくる声だけに返事し、整った道だけを歩いてきた。しかし、これから私は、その悟りを一つの言葉として受け入れて、知らされていないことを探しに出かける。そして道は、その険しい頂点に登るハシゴになってくれる。」この詩は、何もかも、ましてや何が真理なのかをもAI に聞く時代を生きている私たちに、本当に大切なこととは何かを教えてくれます。ペトロは、詩で詠われているように市場から聞こえてくる地上の声ではなく、舌でも咽喉でもないところから響いてくる天上の声に耳を傾けました。そしてキリストから「私は岩であるあなたの上に教会を建てよう。…私はあなたに天の国の鍵を授ける。」(18‐19)という祝福を頂きました。ではいかがでしょうか、私たちはペトロのように、地上に溢れる人々の声に翻弄されることなく、天上の声に耳を傾けながら生きているのでしょうか。


<福音書> マタイによる福音書 16章13~20節

13イエスは、フィリポ・カイサリア地方に行ったとき、弟子たちに、「人々は、人の子のことを何者だと言っているか」とお尋ねになった。 14弟子たちは言った。「『洗礼者ヨハネだ』と言う人も、『エリヤだ』と言う人もいます。ほかに、『エレミヤだ』とか、『預言者の一人だ』と言う人もいます。」 15イエスが言われた。「それでは、あなたがたはわたしを何者だと言うのか。」 16シモン・ペトロが、「あなたはメシア、生ける神の子です」と答えた。 17すると、イエスはお答えになった。「シモン・バルヨナ、あなたは幸いだ。あなたにこのことを現したのは、人間ではなく、わたしの天の父なのだ。 18わたしも言っておく。あなたはペトロ。わたしはこの岩の上にわたしの教会を建てる。陰府の力もこれに対抗できない。 19わたしはあなたに天の国の鍵を授ける。あなたが地上でつなぐことは、天上でもつながれる。あなたが地上で解くことは、天上でも解かれる。」 20それから、イエスは、御自分がメシアであることをだれにも話さないように、と弟子たちに命じられた。

今週のメッセージ一覧へ