聖路加国際大学 聖ルカ礼拝堂

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2026年9月20日(聖霊降臨後第17主日)(2026/10/14)

「タイム・バンク 」 

「タイム・バンク(Time Bank)」という地域通貨(community money、local money)運動があります。地域通貨とは、円やドルなどの法定通貨とは異なり、特定の地域やコミュニティ内で流通する代替通貨を指します。元々は資本主義に対抗し欠点を補う運動として生まれましたが、今は地域経済の活性化やコミュニティ形成を目的として発行されることが多いです。タイム・バンクは、1985年にアメリカの弁護士で市民活動家エドガー・カーン(Edgar Cahn、1935–2022)によって発案されました。銀行と言いますと金を取引するところなのですが、言葉の通りタイム・バンクは金ではなく時間を取引するのです。

実際私たちの周りには、子育てや家事、近所の活性化や環境の保全など、金銭的な評価を与えることが難しいけれども極めて重要な仕事が数多くあります。タイム・バンクはこれらの仕事に費やされる人々の時間を大事な価値として評価し、それを人々が交換するシステムです。つまり、タイム・ダラーの交換基準は、市場経済での労働の対価に基づかず、金銭的な面より精神的な価値を重んじるのです。仕組みとしては、仮に私があるメンバーに対して行った1時間の仕事に1タイム・ダラー(Time Doller)が報酬として与えられ、その1タイム・ダラーを私は他のメンバーに1時間の仕事を依頼する際に使えます。どのような仕事に対しても1時間の労働に同じ価値が与えられます。例えば、高齢者が子どもの世話をし、その子どものお母さんが高齢者にスマートフォンの操作を教える、または身体的な障害を持っているため寝たきりになっている方が話し相手のない方と電話で1時間会話をするなど、専門的なことでなくても人間としての普遍的な価値を分かち合うことができるのです。
タイム・バンクは時間を一つの基準として設けてはいますが、タイム・バンクの創始者エドガー・カーンの著書のタイトル『この世の中に役に立たない人はいない(No more throw-away people)』が物語っているように、根本的には人間そのもの価値や尊厳に焦点が置かれている運動なのです。このようなタイム・バンクの理念に基づくと、今日の聖書「ぶどう園の労働者のたとえ」でぶどう園の主人が取った不公平に見える行為が、実は何より公平な行為だったということが分かります。ぶどう園の主人は、朝早くから働いた人たちにも夕方に働きはじめた人たちにも、雇うときの約束の通りに同じ1デナリオンの賃金を払いました。すると、朝早くから働いた人たちが不満を言いました。確かに資本主義の論理に準じると不公平ですが、全ての労働者がもらったデナリオンが持つ価値を理解すると、決してそうではないことが分かります。

聖書時代のデナリオンは一日の平均的な賃金、つまり1デナリオンあれば一家4人は暮らせる程の金額でした。当時パレスチナ地方には、1デナリオンをもらう日雇い労働で日々の生計を立てる人々がたくさんいました。しかし仕事にありつけないこともしばしばあり、その日は一家全員がお腹を空かせて寝るだけだったのかもしれません。そういった状況の中、ぶどう園の主人に声を掛けられて仕事が見つかるということは、労働者にとっては一日の生活を満たし命が保証されたということを意味しているのです。ぶどう園の主人にたとえられた憐れみ深い神様は、そのような人たちのことを何よりも心にかけ大切にしてくださいました。だからこそ、広場で一日不安の中に待ってやっと午後遅い時間に雇われた人たちから先に賃金の支払いをやったのではないかと推察いたします。

神様から与えられた1デナリオンというのは、ただ単に労働に対する対価だけを意味するのではありません。経済的な価値をはるかに超えるもの、つまり労働者にたとえられる私たち一人ひとりに与えられる、限りない恵みのことを象徴的に示しているのです。憐れみ深い神様によって、全ての人に等しく与えられる恵みとして1デナリオンは、今現在の命であり、明日への希望でもあります。人にとっては、物質的で可視的な価値をはるかに超える、愛であり、慰めであるのです。


<福音書> マタイによる福音書 20章1~16節

1「天の国は次のようにたとえられる。ある家の主人が、ぶどう園で働く労働者を雇うために、夜明けに出かけて行った。 2主人は、一日につき一デナリオンの約束で、労働者をぶどう園に送った。 3また、九時ごろ行ってみると、何もしないで広場に立っている人々がいたので、 4『あなたたちもぶどう園に行きなさい。ふさわしい賃金を払ってやろう』と言った。 5それで、その人たちは出かけて行った。主人は、十二時ごろと三時ごろにまた出て行き、同じようにした。 6五時ごろにも行ってみると、ほかの人々が立っていたので、『なぜ、何もしないで一日中ここに立っているのか』と尋ねると、 7彼らは、『だれも雇ってくれないのです』と言った。主人は彼らに、『あなたたちもぶどう園に行きなさい』と言った。 8夕方になって、ぶどう園の主人は監督に、『労働者たちを呼んで、最後に来た者から始めて、最初に来た者まで順に賃金を払ってやりなさい』と言った。 9そこで、五時ごろに雇われた人たちが来て、一デナリオンずつ受け取った。 10最初に雇われた人たちが来て、もっと多くもらえるだろうと思っていた。しかし、彼らも一デナリオンずつであった。 11それで、受け取ると、主人に不平を言った。 12『最後に来たこの連中は、一時間しか働きませんでした。まる一日、暑い中を辛抱して働いたわたしたちと、この連中とを同じ扱いにするとは。』 13主人はその一人に答えた。『友よ、あなたに不当なことはしていない。あなたはわたしと一デナリオンの約束をしたではないか。 14自分の分を受け取って帰りなさい。わたしはこの最後の者にも、あなたと同じように支払ってやりたいのだ。 15自分のものを自分のしたいようにしては、いけないか。それとも、わたしの気前のよさをねたむのか。』 16このように、後にいる者が先になり、先にいる者が後になる。」


 

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