聖路加国際大学 聖ルカ礼拝堂

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2026年9月27日(聖霊降臨後第18主日)(2026/10/14)

「考える葦 」 

“人間は考える葦だ”という有名な言葉があります。フランスの物理学者で哲学者のブレーズ・パスカル(Blaise Pascal、1623-1662)が著書『パンセ(Pensées)』に残したものですが、原文は“人間はただの葦である。自然界で最も弱いものだ。しかし考える葦である”(L'homme n'est qu'un roseau, le plus faible de la nature; mais c'est un roseau pensant.)となっています。葦は風や水の流れに揺れ動く弱い植物ですが、人間も同じように世の営みに翻弄される弱い存在です。パスカルによると、人間は事故・病・老い・死などによって容易に揺れ動いたり過ちに陥ったりする惨めな存在ですが、一方で他の被造物にはない素晴らしい能力があります。それは、自らの弱さや惨めさを認識することができる、つまり考える能力があるということです。自己認識の能力こそが、人間の尊厳と偉大さの根拠となり、だからこそ人間のことを“考える葦だ”と語ったのです。

そのような理解を参考に今日の福音書の「二人の息子のたとえ」を読み解くことができます。ある人に二人の息子がいました。父から「ぶどう園へ行って働きなさい」と言われたとき、兄は最初「いやです」と答えましたが、後で考え直して出かけました。一方で弟は「はい、お父さん」と答えましたが、出かけませんでした。二人の息子は最初から嘘をついたのか、途中に何か心の変化があったのかは分かりませんが、最初の返事とは真反対の行動をとりました。人間の心は葦のように揺れ動くものです。揺れること自体は人間本来の弱さや限界としてやむを得ないことです。ところが、その結果、物事がどのようになったのかは、自分自身に問われます。

パスカルの表現に準じると、人間には“ただの葦”に止まるのか“考える葦”に変わるのかの違いがありますが、弟は“ただの葦”に転落し、兄は“考える葦”に進化したと言えます。兄は、最初は父に反抗してぶどう園へ行って働きたくないと言いましたが、後で思い直してぶどう園へ出かけました。おそらく彼は、立ち止まって内面を見つめながら、自分の思いと心と行いについて省察し、何が自分と父の心に適うことなのかについて識別するようになり、その結果、方向を変えたのではないかと推察することができます。まさに兄は葦のように弱くて過ちに陥ってしまう惨めな者であったけれども、そのような自分について考えて、真理へと方向を変えることを通して人間の偉大さを現して“考える葦”になった存在なのです。
一方で弟は、最初はぶどう園に行くと答えましたが実際には行きませんでした。当時の風習に準じると、ぶどう園に行くと答えたことは、父の話に従順して家族の名誉を高め本人も人々から認められる行為でした。ところが、弟の問題はその後、自分自身と向き合うことをしなかったため、それが不従順の結果につながったということです。パスカルの哲学用語に「ディヴェルティスマン(divertissement;気晴らし)」という言葉があります。語源が「そらすこと」であるように、人間が自分の惨めさや虚しさ、未来への不安から目をそらすために行う様々な行為を指します。例えば、仕事への没頭、権力や富への執着、趣味への過度な投資、自己満足的な宗教活動など、自分の本当の姿から目をそらすため、絶えず何かによって気を紛らわせる傾向があるのです。静かな部屋にじっといられないことやスマートフォンをいじり続ける癖もその延長にあると言えます。

キリストから認められなかった弟は、まさにディヴェルティスマンの状態ではなかったかと推察できます。彼はまず正しい言葉を語って周りからも従順な息子に見られました。しかしそれに満足してしまい、本当の自分と向き合って、人間としての弱さや惨めさについて省察することも、正しい生き方について識別することもありませんでした。兄が弱さや惨めさを知ることを通して人間の偉大さを表す“考える葦”へと進化した半面、弟は、自分の弱さや惨めさについて考えることも認めることもない“ただの葦”に転落してしまったと言えます。ではいかがでしょうか、あなたは“考える葦”になっているのでしょうか。

<福音書> マタイによる福音書 21章28~32節

28「ところで、あなたたちはどう思うか。ある人に息子が二人いたが、彼は兄のところへ行き、『子よ、今日、ぶどう園へ行って働きなさい』と言った。 29兄は『いやです』と答えたが、後で考え直して出かけた。 30弟のところへも行って、同じことを言うと、弟は『お父さん、承知しました』と答えたが、出かけなかった。 31この二人のうち、どちらが父親の望みどおりにしたか。」彼らが「兄の方です」と言うと、イエスは言われた。「はっきり言っておく。徴税人や娼婦たちの方が、あなたたちより先に神の国に入るだろう。 32なぜなら、ヨハネが来て義の道を示したのに、あなたたちは彼を信ぜず、徴税人や娼婦たちは信じたからだ。あなたたちはそれを見ても、後で考え直して彼を信じようとしなかった。」

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