聖路加国際大学 聖ルカ礼拝堂

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2025年3月9日(大斎節第1主日)(2025/03/12)

チャプレン ヨナ 成成鍾 司祭
「 誘惑 」

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イエスは聖霊に満ちて、ヨルダン川からお帰りになった。そして、荒れ野の中を“霊”によって引き回され、 四十日間、悪魔から誘惑を受けられた。

(ルカ4:1-2)

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「 誘惑 」

誘惑、それは人類の最も根源的な課題だと言えます。キリスト教は、人類の罪と堕落は最初の人間アダムとイヴが蛇に誘惑されることによって生まれた(創世記3章)と理解しています。いわゆる「原罪(original sin)」のことを信じるかどうかは別として、今でも人々はあらゆる誘惑に悩まされます。むしろ物質文明の発達と多元化されている時代だからこそ、日々の様々な選択の中に誘惑との戦いが絶えないと言っても過言ではありません。聖書によりますとキリストも誘惑されたことがあります。公生涯という本格的な宣教活動を始める前に、ある種の通過儀礼として荒れ野に40日間滞在した時に悪魔に誘惑されましたが、見事にそれに打ち勝ちました。キリストが誘惑を退いた出来事は、誘惑の多い時代を生きている私たちに大きな示唆を与えます。

伝統的に「大斎節第一主日」にはキリストが受けられた誘惑の物語が読まれます。それによりますとキリストは悪魔から三つの誘惑を受けましたが、全てをみ言葉を以って退けたとあります。悪魔から求められた三つの誘惑には以下のような象徴性があります。一つ目の「石をパンにしてみろ」(3節)とは、物質的で身体的な側面での誘惑のことを、二つ目の「国々の一切の権力と栄華を与えよう」(6節)とは、欲望などの心理的で精神的な側面での誘惑のことを、三つ目の「神殿の屋根から飛び降りよ。神の子だから守られる」(9‐10節)とは、悪魔が聖書の言葉を用いて誘惑したため魂や信仰的な側面での誘惑のことを、それぞれ示していると考えられます。このような解釈に準じますと、誘惑というのは人間存在の全領域である肉体・精神・魂の側面において生じるものであり、普段は見えないけれども身の回りに潜んでいるものであるということが分かります。人間の営みの中、物質的な面・心理的な面・信仰的な面を問わず、あらゆる部分において誘惑はあるわけです。

このように誘惑は何か特別なことであるというよりは、日常の中で絶えず求められる選択としてあるものです。ではいかがでしょうか、皆さんにはどのような誘惑があるのでしょうか。まるで荒れ野のようなこの世を生きる人々は常に誘惑にさらされています。ことにキリストに倣う生き方を求めている人々にとっては付きものだと言えます。誘惑を通して神様から離れる可能性も、逆に神様へとより近く導かれる可能性もあります。そういう意味で私たちの間に誘惑があることを否定したり、誘惑に陥ってしまったことで自分を責め続ける必要はなく、むしろ弱い存在として自分が誘惑されやすいものとは何かについて知り、それとどう付き合うのかが大事です。

それでは、誘惑に陥らないためには、何をどうすればよいのでしょうか。先ず言えることは、誘惑と戦うつもりで、よく誘惑に負けた・勝ったという表現を使いますが、それは誘惑に対する根本的な解決にはならないということです。それは誘惑との戦いの結果として、勝ち負けの責任と功績が自分にあるということを表すからです。それゆえ、戦いの対象が自分であろうが悪魔であろうが、誘惑に対して戦うのではなく、神様に寄り頼むことを通して誘惑から救われるようになるということが求められます。まさに『主の祈り』を通して「私たちを誘惑に陥らせず、悪からお救いください。」と祈るように、神様により頼むことと、そのため自分の思いと心と行いを神様に委ねることが大切です。それは悪魔の存在が持つ特徴からも知ることができます。聖書の中で記されている悪とは、神様から離れるということを意味し、人間を神様から引き離そうとする力の根源にあるものが人格化されて悪魔と呼ばれます。ですので、悪と悪魔からの誘惑に陥らないようにするためには、意思を持って神様により頼み全てを委ねることが求められるのです。「灰の水曜日(Ash Wednesday)」から始まって40日間続く「大斎節」(Lent;四旬節とも言う)の間、自分にとって誘惑とは何か、それらをどのようにして神様に委ねているのかについて顧みてみましょう。


<福音書> ルカによる福音書 4章1~13節

1さて、イエスは聖霊に満ちて、ヨルダン川からお帰りになった。そして、荒れ野の中を“霊”によって引き回され、 2四十日間、悪魔から誘惑を受けられた。その間、何も食べず、その期間が終わると空腹を覚えられた。 3そこで、悪魔はイエスに言った。「神の子なら、この石にパンになるように命じたらどうだ。」 4イエスは、「『人はパンだけで生きるものではない』と書いてある」とお答えになった。 5更に、悪魔はイエスを高く引き上げ、一瞬のうちに世界のすべての国々を見せた。 6そして悪魔は言った。「この国々の一切の権力と繁栄とを与えよう。それはわたしに任されていて、これと思う人に与えることができるからだ。 7だから、もしわたしを拝むなら、みんなあなたのものになる。」 8イエスはお答えになった。
「『あなたの神である主を拝み、
ただ主に仕えよ』
と書いてある。」 9そこで、悪魔はイエスをエルサレムに連れて行き、神殿の屋根の端に立たせて言った。「神の子なら、ここから飛び降りたらどうだ。 10というのは、こう書いてあるからだ。
『神はあなたのために天使たちに命じて、
あなたをしっかり守らせる。』
11また、
『あなたの足が石に打ち当たることのないように、
天使たちは手であなたを支える。』」
12イエスは、「『あなたの神である主を試してはならない』と言われている」とお答えになった。 13悪魔はあらゆる誘惑を終えて、時が来るまでイエスを離れた。




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