教会の隠し味(Directions)

新しいパトリック教会の隠し味


【そもそものコンセプト

新しい教会を建てるにあたって1994年に教会建築準備委員会が設立され、その後1995年に教会建築委員会に変更、1年以内に建て替える予定で準備に入りました。

新教会の設計のコンセプトは礼拝の時に日の光が入る明るい教会、人に優しいぬくもりのある教会を目指してというもので、予算との戦いの中で現実の教会の姿を模索しました。

鉄筋がいい!木造がいい!ログハウス風がいい!等の意見が出る中、予算的には鉄筋構造が不可能なことを確認、それならば徹底的に木造にこだわろうということで、多くの人の印象にのこる木造建築にしようということになりました。

また、教会にはこの機能が必要!こういう部屋があれば等の意見も多数で、部屋を足していくと歪な、不恰好な教会になってしまうことも認識し、最初に全体のコンセプトを決定することにしました。


【コンセプトが決まりました】

それが今ある教会のバジリカ方式の建築方式でした。

真ん中に身廊、両側に側廊という考えで、しかも前後に半円形のアプスを設けるという言わば古典的な配置ですが、われわれが求めていたものに限りなく近い構造になっていることが確認できました。特に前の教会は会衆席が前後に長い構造になっていたので、後ろの会衆は礼拝に参加するのに距離を感じるという香山先生の意見で、横長の会衆席にし、古い教会と同数の会衆を向きを変えて、会衆が司式者に近い位置で礼拝できるというアイデアを採用しました。会衆全員が司祭を囲むような雰囲気になり大成功なレイアウトだと思っています。

会館側はホールを身廊とし、南側の執務室・倉庫・トイレを側廊、北側の台所・階段を側廊の部分で活用しバジリカ方式を再現することができました。太陽がいっぱい入る教会のイメージは毎主日の礼拝で朝日が聖卓に差し込むことをイメージしましたが、実際には年に2回春分の日と秋分の日に近い主日で10:30に陽光が聖卓に差し込むことで確認できます。

ちなみにその時は礼拝堂の真中の赤い絨毯にも天窓からの陽光がまるでわれわれを導いてくれるように一列に4つの並ぶます。


【細部の説明】

西側のアプスですが本来はコンフェッションルーム(懺悔室)の予定で周りから見えないようなカーテンをするということになっていましたが現在は常設のバザー展示場になっています。

ホール西側の天井ですが、一部が吹き抜けになっています。夕日が大窓から入り、階段から2階を経由してホールにという空気の大循環をさせることで(そのために2階の天井にファンが廻っています)春・秋の気候のいい時はエアコンを使用しないでも快適にすごせるようにしました。大窓は夕日を入れてホールを明るくするという目的もあります。


【身障者の方への配慮】

さて、木造を主体とすることでの意見はまとまりましたが、次は身障者の方への配慮です。車椅子生活を送っている勝又氏をお招きし古い教会がいかに車椅子の方に利用しにくい教会か(入り口をはじめ段差が多い)を指摘していただきました。新教会はどこでも車椅子で簡単に入れることを念頭に入れて設計しました。教会の入り口の段差をなくし、教会内の移動はまったくバリアーのない設計にしました。入り口の段差がないため土が教会に入ってしまうという意見もありましたがバリアフリーを優先、土が入れば拭けばいいということで落ち着きました。

ホールのトイレですが車椅子の方が利用できるよう大きなスペースを確保、補助器具も通常は跳ね上げ式で、使用時に倒す方式を採用しました。扉は当然引き戸としました。また横の洗面所は車椅子利用を前提に化粧用の鏡が前向きに傾いています。車椅子に座っている方に正対する設計です。蛇口も片手で水が簡単に出るようなものにしました。


【木造での難点を克服】

次は木造建設での難敵、雨との戦いです。古い教会は雨の跳ね上がりで土台のすぐ上の壁財の多くが腐食し、ひどいところでは指を突っ込むとそのままブスブスという感じで入ってしまいました。そこで極力コンクリートの土台を高くしてほしいと依頼、外見ではコンクリートの土台(地面からの立ち上げ)がかなり高いのを確認していただけます。

100%木造建築でこの教会が建つのかという疑問を持った方もいるかもしれません。実は礼拝堂正面の三角屋根になっている端の【への字】の部分は木材だけでは加重を支えることができないという建築家の本道氏の進言で、鉄骨が補強されています。

さてさて最大の難関は教会の床をなににするかということです。


【床をどうするかを決定】

ある方は教会はそもそも土足で入る場所でありスリッパに履き替えるのはおかしい!ある方はこの教会はエンジェル音楽教室がありリトミックをやっている。土足の床ではりリトミックができない!喧々諤々さーーーーぁ大変。いろんな意見がだんだんまとまり始めリトミックもできて外履きでも入れる教会をということになり、通常は靴を脱いで入る教会、冠婚葬祭のときは外履きもOK、汚れればみんなで拭けばいいという結論になりました。

床材は30mmの杉を使用、独特の質感があります。表面にはワックスがかかっていますが汚れてしまった場合、カンナをかけると新品になることも考慮しました。

エンジェル音楽教室との共存のためにホールの中の壁は腰の高さまで板になっています。リトミックの生徒が跳んだり跳ねたりして壁にぶつかって怪我をすることのないようにとの配慮です。


【さてさて外の十字架の設定】

その次が十字架の設置です。古い教会では通りに面して十字架を屋根の上に設置していましたが、典型的な教会にせず可能な限り十字架は設置しないということ、また東京電力の高圧電線が通っていますので高さ制限があり屋根の上に十字架を乗せることは不可能ということで屋根の上には十字架を設置せず、今後の課題としました。


【教会以外のコンセプト】

全体のイメージが固まったのでいよいよ外のコンセプトを決めなければいけません。

古い教会は庭+牧師館の第1層、教会があった第2層、駐車場の第3層と段差がありました。これをうまく活用しようということで第1層はそのままとし、第2層、第3層に教会を設置、第2層面に教会の床を設定することで第3層を地下の倉庫(物置)として活用、古い教会での収容能力不足をカバーしました。

また、第1層の庭も手入れをすることにし、キウイ棚、ブランコの撤去、できた空間にログハウスを移設するという作戦にしました。ちなみにログハウスは古い教会のときに日曜学校の分級をする場所がなく、みんなで外にその場所を確保しようということで予算をし、建築家を招き基礎から監修をしてもらい、アンカーもし、男の人たちが総出で雨の中、作り上げたものです。(外屋根だけは素人では雨漏りがするのでプロにお願いをしましたが)新しい教会になり2階に日曜学校の分級ができたために今では外作業(環境整備)のための倉庫やバザー時の試着室として活用されています。

さて、今までは自然のままに放置していた庭もイングリッシュガーデンを目指して整備を開始、日曜学校の畑も常設、芝生を敷き詰めてとても美しい庭になりました。

古いホールがあった場所は駐車場になり以前の駐車能力を上回るレイアウトを可能にしました。また、入り口には特設の花壇を配置、教会から庭に至るノリ面を改装し教会との一体感を築きました。


【たて看板と鐘】

最後は教会入り口のたて看板と鐘についてですが立て看板の文字は教会員の手書きによるものです。ちなみに看板側面に白いペンキの跡が確認できますが、それは古い教会の外壁を塗ったときに誤ってついたペンキの部分です。

また鐘はヨハネ修道院の銘が確認できます

さてそれでは本題の【内装の隠し味】に入ります。


【礼拝堂内】

礼拝堂正面の十字架は古い教会で使用していた赤い十字架を加工しました。赤い塗料をそぎ落とし、一度完全に分解、すべての赤色を取り除いて再度組み立て、そこに柿渋とログハウスの表面の塗装用ペンキを塗り今の色を再現しました。その後、十字架を正面の壁面にどのようにして吊るすかを検討し、天井から吊るす等の意見も出ましたが、やはり正面の壁面に掲げる案で一致しました。どのように掲げるかについては設計者の白石さんに相談し、壁に杭を打ちそこに引っ掛ける案で落ち着きました。

しかし、いざ杭を購入し実際に打ち込む時になり無垢の教会の壁に杭を打つことは誰もできませんでした。しかも一度打ってしまえば後で高さ(見栄え)がおかしいからといって直すこともできません。結局これができるのは白石氏しかいない!お願いします!と依頼した結果、白石氏はまさにここだという場所に杭を打ちました。

それは見事に思い切った仕事で、現状の十字架の位置に、そして全体との調和が取れたすばらしいポジションに収まりました。

ちなみに古い教会での十字架には王冠をいただいたイエス様が磔刑にあっている木像が付属していましたが、今の教会になって「イエス様に王冠は・・・・・」という意見がありはずされたままになっています。礼拝に訪れた他教会の方が十字架のバランスが少し変だと指摘される事がありますが理由はそこにあります。

礼拝堂だけではなくホールを含め教会全体の壁は当時まだめずらしかった珪藻土(ケイソウド)を使用しました。これは接着剤を使用して壁紙を張るような人間環境に悪い影響を与えないとの建築家本道さんからの提案でした。実際には貝殻を粉にしたものを壁に塗ったというイメージが正しいようですが、建築当時から新築建築特有のいやなにおいが一切なく木材のにおいがする教会に仕上げる事ができました。

建築後に他の教会から教会建築に関するメンバーの方が来れられたりし、その中に建築関係にお勤めの方がいますと必ずこの珪藻土の話がでるくらいです。みなさんから先見の明がありすばらしいというお言葉をいただけます。


【古い備品の活用】

古い教会で使っていたオルター・長椅子等もできるだけ継続使用することにしました。

オルターは足がハの字になっていましたので聖別解除中に足がなるべく垂直になるように修正しました。そういえば今の教会ではオルターの司式側に名盤がついていますが古い教会では会衆側に向いていました。(不思議です!)


【正面のカーペットは奇跡】

最後に・・・・聖壇のカーペットですがお気づきでしょうか・・・

オルターの下に敷いてあるカーペットは会衆に向かって丸くなっているのをご存知と思いますが、そこにしわがなくきれいなカーブを描いているのはまさに職人芸です。普通に考えれば平らな聖壇に敷かれたカーペットを丸いカーブに沿って敷きつめると必ずしわがよるはずですがさすがは本道さん、きれいにまとめていただきました。職人さんもここは苦労しましたと言っていました。


【その他の備品】

レターボックスはいろいろな教会を見て廻りました。いま考えればA4の箱を縦長か横長に配置するのがよかったかもしれませんが、折りたたみ式の縦長にしました。あの細い枠に入らない場合は5枠ごとに引き出せるように設計しました。

礼拝堂の照明器具の色は現在は黒ですが、最初はねずみ色(灰色)でした。吊り下げてみて黒がいいとの判断で変更しました。

古い教会の長いすは虫食いのため半分は処分し、その中の一部を中古品業者に売りましたが、新しい教会になってみると長いすが風情があってもっと残しておいてもよかったかなと思う人もいたようです。

そして、現教会は基本的に何かの掲載のために壁に釘を打たないという鉄則を守ることにしました。聖別の証、時計、等が礼拝堂にありますが実はすべて釘を使わずに使用しています。(但し道行のパネルのみ画鋲で固定しています)

タバナクルとパンと魚のパネルは聖別後に設置されました。釘を1本も使わないようにしていただいたそうで、特にパンと魚のパネルはタバナクル作成時、あまった木材を使用してお造りいただいたようです。赤いアンプは麦の透かしを入れていただきました。感激です!

十字架に向かって左の小部屋はベストリーです。アイロンかけや聖具のおみがきが行われます。右の小部屋は放送設備とサーバーや信徒奉事者の着替えの場所です。


【ホールにて】

ホールで目を引くのがパトリッククロスではないでしょうか。ホール西側のアプスに面して大きなバッテンが二つあります。これは補強が主な理由ですがパトリッククロスを表しています。

ホールの天井は梁と天井で段差がありますが少しでも天井を高くしようとした結果です。

執務室は床下に倉庫を持つ部屋のひとつです。壁に面して書棚がありますがもともとはB4サイズが入るものしかありませんでしたが笹森先生の依頼でA4が入るものを後から設置しました。

台所は本道さんに予想以上の備品を納入していただき大変感謝です。台所の仕事が大変円滑に行えています。またここにも床下収納があり、バザー等の備品が収納されています。


【二階に上がる階段】

二階に上がる階段、これは相当議論しました。車椅子の方が二階に上がる方法がまず問題になりました。自分で上がるためには庭からの巨大なスロープを用意するか、エレベータを設置するしかありません。しかし、現実的でなかったり、予算もありませんでした。であれば大人4人で担げるようにしようということになりました。車椅子を4人で担げる幅を決め、本来なら四角い階段を全体的に丸くカーブさせました。実際にやってみましたが何とか担ぎ上げることができました。

階段を上がると正面に大きな絵が掲載されています。これは独立会員の教会員の方の作品です。少し離れてみていただくと描かれているものが見えてきますので試してみてください。

さて和室ですがここはいろんな目的で使用していただくために用意しましたが、特に授乳をされる教会員のために小窓をつけました。説教を安心して授乳しながら聞く事ができます。

十字架を正面に大窓を作りましたが、二階からの礼拝を可能にするためで、日曜学校の生徒が時々覗いています。記念写真を撮るポジションともなっています。

シャワーも用意されており安心してお泊りいただくことができます。