オリンピック災害

東京2020オリンピックは人的災害だと考えます。勿論アスリートたちには全然責任はないし却って気の毒で仕方がありません。ベストを尽せるよう祈ります。

問題は、主催者たちの私利私欲にあり、いわゆる拝金主義、商業主義、政治的思惑にオリンピックは毒されてしまいました。これほど主催者側の舞台裏が表沙汰、赤裸々になったのは初めてでしょう。近代五輪の崇高な理念である公平、平等、平和の祭典は完全に崩壊し、女性差別、障がい者差別、民族差別が発現しました。

私には、当初からオリンピックと東日本大震災復興が絡み合わせられている点が不愉快でした。そもそも「福島は完全にアンダーコントロールだ」のうその発言から誘致され、「復興オリンピック」と旗掲げされたその胡散臭さに閉口します。東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所核爆発事故から10年の年に、地震・津波・放射能汚染を隠すかのような振る舞いは無責任で、罪深いものです。真に苦しんでいる被災者を再び、三度葬り去る残酷非道な行為です。トリチウム汚染水の海洋放出決定は現在進行形の大問題ですが、五輪によって、この大問題から私たちの目をそらすことができたら、或は忘れ去らせることができたら、しめたものなのでしょう。

新型コロナウイルス感染防止にとっても、まるで正反対の愚行です。「コロナに打ち勝った五輪」と喧伝され、「安全安心な大会」のフレーズが繰り返される毎に、私は原発爆発後、当時国民向けに繰り返されたあのフレーズ「直ちに健康に影響が出るものではない」が思い出されて、悪夢を見ているようです。先日、広島高裁での「黒い雨」訴訟で全面勝訴した広島原爆被曝者原告84人は、被曝して発症後76年間も苦しめられているのです。判決では「黒い雨」の降雨範囲は国が定めた区域より広範囲に降ったとし、健康被害の評価に際しては、降雨の状況やその後の生活状況、症状などをふまえ、内部被曝の影響を重視したうえで、国の定めた区域内かどうかで健康状態に差があるとの調査報告は存在しないことから、援護に差をつけるのは合理性がないと判断しました。これは、そのままそっくり原発事故による被災者に当てはまる論理だと思います。晩発性のガンなどの病気は直ちには発症しませんし、区域を特定することなど、到底できません。

7月12日に日本外国特派員協会で、日本女医会理事の青木正美先生等がパンデミック最中の東京五輪が、いかにリスクがあり、特に女性に対してより過酷に働くかを訴えました。

「(東京オリンピック・パラリンピックは)人類の生命維持に対する最大の冒瀆です。会場を全て無観客にしようがしまいが、選手や関係者が世界中から一カ所に集まるなど、パンデミック下に絶対にやってはいけないことです。もしも、このままオリンピックを開けば、東京は巨大なエピセンターになってしまいます。そして選手や関係者がウイルスを自分の国に持ち帰れば、それによって多くの人命が失われることでしょう。今、私たち人類がしなければならないことは、みんなで集まってスポーツをすることではありません。お互いできるだけ離れて、パンデミックを終息させ、人類の命を守ることです。」

青木先生が医師としての倫理観で発言しておられるように、私たちも宗教者・キリスト者として「いのちを守るための」倫理観で、このオリンピック災害に向き合いたいと思います。

(文責:原発問題プロジェクト委員長・長谷川清純)