金なんか要らないよ、きれいな海を返してくれ

主教 アンデレ 大畑 喜道

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 10月の主教会は福島県郡山の聖ペテロ聖パウロ教会で行われました。

 毎回、主教会では人権の学びの時を持っていますが、今年は最終日に福島第1原発の被災地域を訪問し、仙台まで被災地を訪問しました。高速を降りてすぐにガイガーカウンターが警告音を発しだしました。促されてマスクをし、立ち入り禁止区域近くまで行きました。かつては子供の声が聞こえていたであろう学校は草に覆われ、駅舎も線路も草が生えていて、本当にこれが現実なのかと思い知らされました。除染中というのぼりだけがたなびく中、時折、工事車両だけが通り過ぎていきます。除染した土を入れた袋がうず高く積まれています。全くのゴーストタウンの中を訪問しながら、再びこの地で笑顔で食卓を囲むときは来るのだろうか、どうしてこんなことになってしまったのだろうか。これから私たちはどのようにしていけばよいのだろうか悩んでしまいました。

 新地町の仮設で被災された方々と話す機会もありましたが、「試験操業でとれた魚を孫に食わせてやれないこの悔しさや、切なさがわかりますか」と迫られて、大震災から4年以上たって、しわ寄せがますます弱者に押し寄せている現実に私たちは、決して忘れない、祈り続けますとしか言えませんでした。

「金なんか要らないよ、きれいな海を返してくれ」その声がいつまでも頭から離れませんでした。東京に住んでいる多くの人々はニュースも聞かなくなり、その現実が分からなくなってしまっています。少しでも思い起こし祈り続けていきたいと思います。

スーパードクター

主教 アンデレ 大畑 喜道

 精神科医とお話をする機会がありました。自分は切ったり張ったりするようなゴッドハンドも持たない。外科の先生のように派手ではないし、感謝もされない。自分のところにやってきて何かが解決すると来なくなる。怒こられたり、罵声を浴びせかけられることもある。しかし派手に治すことができなくとも、感謝の言葉をいただかなくても、自分が寄り添った患者さんが立ち直ってまた一歩を踏み出してくれるのは何よりもうれしい。現代社会は複雑になり、気持ちの整理がなかなかできないで、助けてともなかなか言えないような苦しむ人がたくさんいる。自分はそんな人の少しでも役に立てたらと思うんです。牧師さんも同じですよね。何か、目に見えるような、派手な技術はないけれども一緒に祈っていく中で、また勇気を与えられて立ち上がっていく人がいる。まさにこの世のスーパードクターですね。ちょっと面はゆい感もありましたが、自分の召し出されている役割を垣間見た瞬間でした。