「核のゴミ」 – 寿都町、神恵内村における文献調査を考える –

 2020年8月に、北海道後志(しりべし)管内の寿都(すっつ)町、9月には同じ管内の神恵内(かもえない)村が「核のゴミ」と呼ばれる、原発の使用済核燃料から出る「高レベル放射性廃棄物」の最終処分場の選定に関する「文献調査」に応募しました。経産相は11月18日、両自治体の文献調査計画を認可し、その実務は原子力発電環境整備機構(NUMO:電力会社の100%出資による民間会社)が担当しました。

寿都町、神恵内村、柏原発の位置関係

「核のゴミ」最終処分場の選定に関する「文献調査」の背景

 今世界には437基の原発が運転中ですが(2020年1月現在)、使用済核燃料の処分についてはほとんど決まっていません。日本では2007年に高知県東洋町が「文献調査」に応募しましたが、住民の反対によって白紙撤回されました。

 これら地方自治体が「核のゴミ」最終処分場に応募する背景には、深刻な人口減少による過疎化(現在の寿都町人口:2800人、神恵内村:818人)とそれによる財政難があります。そして少子化に歯止めがかからず将来の自治体存続が危ぶまれている状況があります。この様な状況の中で応募した「文献調査」が認可された事により、自治体は2年間で20億円の交付金を受け取る事になり、この交付金を利用して地域経済の活性化を図りたいとしています。「文献調査」の結果、次の段階として「概要調査」に進める事になれば、4年間で更に70億円の交付金を受け取る事になります。東京工業大学の中島岳志教授はこの様な状況を「自発的服従」と呼んでいます。国がその選択肢しかない状況にまで地方を追い込み、手を挙げさせている構造があり、「国が自治体を主体的に従属させる構造」と言っています(2021年6月30日北海道新聞)。国が問題を先送りして、手を挙げてくれる地方に都市部の生活のツケを負わせる方法であるというのです。

 原発は国のエネルギー政策の基本的柱として建設されてきました。それにより電源構成比率として30%を越える程に増加しました。しかし2011年3月の東日本大震災の巨大地震と大津波によって東京電力福島第一原子力発電所が爆発による過酷事故が発生し、日本中の原発を停止して安全対策の見直しが必要となりました。現在は9基の原発が再稼働しましたが、老朽化した原発は安全対策の費用対効果から23基が廃炉に決定され、再稼働を検討中の原発は24基の状態となっています。

 寿都町は2021年10月26日に町長の任期終了による選挙が行われ、現職と「文献調査」の撤回を訴えた新人候補の対決となりましたが、1135票対900票で現職の片岡町長が勝利しました。これにより「文献調査」は継続される事になりました。しかし寿都町の住民の中に生じた「分断」の溝はさらに深まったと言えます。調査撤回の支持者たちは「文献調査」終了後に予定されている住民投票に向けて反対運動を継続する方針でいます。

計画されている「核のゴミ」処分の工程

 そもそも「核のゴミ」とは、日本の場合、原発で使用した使用済核燃料を再処理し、核分裂によって生成されたプルトニウムとまだ使用できるウランを取り出した後、残りの高レベル放射性廃棄物をガラスと共に溶かして混ぜた「ガラス固化体」と呼ばれるものをいいます。「ガラス固化体」には核分裂により生成された多種多様な核種が含まれています。そこには放射能半減期が短いものから長いものまであり、短いものは数年、長いものでは100万年以上のものまで含まれています。「ガラス固化体」は直径約45cm、長さ約130cmのステンレス製円筒容器(キャニスター)に収納され、密封されています。重量は1本約500kgとなります。

 地層処分は「ガラス固化体」を中間貯蔵施設に30〜50年保管して温度が100℃程度まで低下した後、輸送用の容器(キャスク)に28本収納して最終処分場に運ぶ事になります。キャスクは115トンという重量になるので、港の揚重設備や道路の整備が必要になります。処分場ではキャニスターは厚さ20cmの炭素鋼合金の容器(オーバーパック)に入れられ、さらにその外側はベントナイトと呼ばれる厚さ70cmの粘土鉱物の緩衝材で覆われる事になります。これまでが人工バリアと呼ばれる放射性物質の漏洩対策で、これを地層深く埋めることが天然バリアーと呼ばれる対策です。キャスクに収納して処分場に運ばれた「ガラス固化体」に人工バリアーを取り付ける作業は処分場の地上施設によって行われますが、まだ放射能レベルが高く、温度も高いので遠隔操作による作業となり、また地中に埋設する作業も被曝遮蔽は十分に行わなければなりません。以上の通り、埋設作業は放射性物質を扱う作業であることから、1年に1000本程度のガラス固化体を埋設することができるとしても、全ての作業が終わって閉鎖するまでに40年程度かかる事になります。

 地層処分とは、このように、ガラス固化体に3重のオーバーパックを人工バリアとして取り付けた後、地下300mより深いところに埋めて放射能が近寄っても問題ないとされるまで保存する事です。それには10万年必要と考えられています。北欧のフィンランドは世界でいち早くこの地層処分場を建設中で、近く使用済核燃料の搬入が行われるものと思われます。オンカロと呼ばれるこの処分場の地質は18〜19億年前から安定した地層であり、花崗岩などの硬い結晶質岩で出来ています。それに比べると、日本は4つの大陸プレートが入り組んでいる地震が多い不安定な地質で構成されている地域です。

 寿都町と神恵内村はこうした地質学的特性を考慮して「文献調査」を受け入れたのではなく、その適/不適を調査するだけで支給される交付金を目当てに受け入れたのでありましょう。

2021年10月、地質の専門家らが「不適地」と声明発表

 地質の専門家である北海道教育大学名誉教授、岡本聡さんら3人は他の62名の専門家と連名で寿都町周辺の地域は地層処分場には「不適」であると声明を発表しています。岡本さんは学生時代、寿都周辺の地質をくまなく歩いて調べた経験があり、この周辺は、噴出したマグマが水で冷やされてできた「水冷破砕がん」が広がっていて特に不均質で脆弱な地層であり地震に弱いと指摘しています。

岡本聡さんらが出した声明は、こちらからご覧ください(岡村聡さんの承諾を得て掲載します)。
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