「核のごみと謂れなき犠牲の押し付け」小出裕章さん講演会から

今、北海道管内の寿都町と神恵内村では、「核のごみ」(=原発の使用済核燃料)を最終処分する場所としての適否を検討するため「文献調査」が行われています。これは原子力発電環境整備機構(NUMO)によって、2020年12月から2年にわたって行われているものです。その調査が終了する今年、その結果によって、次の「概要調査」に進むかどうかが判断されることになります。

この状況の中で宗教者核燃裁判の原告団の有志が「核のゴミの地層処分に反対する宗教者ネットワーク」を結成しました。道内各地でこの件に関する学習会を開催し、広く道民が当事者として考え判断する事を願っています。学習会の開催地としては先ず旭川と帯広、次に札幌、函館、苫小牧、寿都、黒松内を考えています。

2022年5月15日には、講師に東京電力福島第一原子力発電所事故が起こる30年以上前から専門家として見解を発表し続けている小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)をお招きし、講演会を開催しました。会場は旭川で、帯広にはサテライト会場を設けました。参加者数はオンラインでの個人参加を含めて360人に上りました。またこの講演会では、聴覚が十分でない方のために手話通訳者とUDトークという要約筆記システムを用いました。

小出さんは講演の中で先ず「事故は必ず起きる」、そして「電力の恩恵は都会が受け、危険は過疎地に押し付けられている」と述べられました。また、国策として建設された福島第一原発の爆発事故により大気中に放出された放射能は、広島原爆の168発分という途方もない量に及んだことを示されました。この爆発によって14,000kmという広大な地域が汚染され、原子力緊急事態宣言が発出されたのです。放射能の被曝は特に子どもにおいて敏感です。拡散した放射能の主な成分はセシウム137で、半減期が30年と長いことが知られています。100年経っても10分の1にしかなりません。したがって、日本は今後100年以上にわたる原子力緊急事態宣言下にあり続けるとお話されました。

「核のゴミの地層処分に反対する宗教者ネットワーク」主催 講演会「核のごみと謂れなき犠牲の押し付け」チラシ

「核のゴミ」は色々な処分方法が検討されましたが、現在最も現実的な方法は地層処分であると言われています。これは300mより深い地中に埋設する方法とされています。しかし、使用済核燃料のウランや核分裂生成物を元の放射能レベルまで減らすには、短くとも10万年を要すると言われています。その途方もなく長い期間を安全に管理することは到底不可能と考えられます。

最終処分地の選定は、財政に苦しむ過疎地の地方自治体に対して、交付金支給と引き換えに誘致を促す政策となっています。日本は1945年に広島・長崎に原爆を投下された世界で唯一の戦争被爆国です。原爆の威力は勿論、放射能被曝の怖さを十分知っています。さらに2011年3月には福島第一原発の爆発事故で放射能が広範囲に拡散し、多くの人々が避難を余儀なくされました。2022年2月時点でまだ33,000人以上の人達(この公式発表には数えられていない避難者もいる)が避難生活を続けています。

(毎日新聞出版、2021年6月第3刷発行)

国策として進められてきた原子力発電事業ですが、そこから生まれる「核のゴミ」処分についても過疎地に押し付けようとしています。そしてさらに、現在停止中の原子力発電所の再稼働も目論んでいます。エネルギー源としての原発は国民全体の問題であり「いのち」の問題です。小出さんの著書『原発事故は終わっていない』は今回の講演全体を理解するために大変参考になります。ご一読をお勧めします。

(文責:原発問題プロジェクト委員 尾関敏明)