聖光幼稚園のおひさま発電プロジェクト

2020年、京都市にある聖光幼稚園が園舎に太陽光パネルと蓄電池を設置しました。費用は聖光幼稚園の資金の他に、市民からの寄付や様々な協力金等、たくさんの方からの協力で集められました。このプロジェクトは、幼稚園とNPOきょうとグリーンファンドが協力して市民共同で行った事業として、注目すべき取り組みです。

幼稚園と地域が一体となった取り組みは、大人だけの問題ではなく、幼稚園の子どもたちに自然への意識を身近に持たせ、「よりよい社会は自分たちの手でつくっていけるんだ!」という経験をつくりました。また、幼稚園の屋根に設置された小さな発電所は、ただ電気を生産するだけではなく人と人の繋がり、人と自然との繋がりをつくる場となりました。

以下は「おひさま発電プロジェクト」を中心的に担われた、当時の聖光幼稚園・園長 松山健作司祭にご寄稿をお願いしたものです。皆さんの地域でも同じような取り組みがあるかもしれません。繋がりを広げていきましょう。

せいこうようちえんおひさま発電所

司祭 松山健作(学校法人聖光学園 聖光幼稚園 前園長)

聖光教会・幼稚園は、女性宣教師スカイスルの日曜学校から始まりました。松ヶ崎の子どもたちが集まる日曜学校は、1931年ついに幼稚園に発展し、その幼稚園出身者たちや保護者が信仰を養われることによって、教会が設立されました。

宣教師スカイルス
当時の園舎

そんな90周年を迎えようとする聖光幼稚園に2020年夏、全国のみなさまからご支援をいただき、おひさま発電所(太陽光11.1kwh、蓄電池6.5kwh)が完成しました。

聖光幼稚園のある場所

聖光幼稚園は、京都五山送り火の「法の山」の麓、京都市左京区松ヶ崎の自然豊かな場所に位置します。園の裏山には、たくさんの鹿の家族や猪などの動物が住んでいます。その一方で、近年の大雨や地震などの自然災害には常々悩まされ、不安を抱えていました。急な大雨や台風で木々が倒れ電線にかかり停電します。休園を余儀なくされるということもしばしばです。停電の間は、非常用の発電機を備えているものの、ネット環境や必要最低限の電力が賄えず、保護者への連絡もままならないという安全対策上の課題がありました。

法の山を登る子どもたち

始まりは出会いから

そんなある時、福島のこどもたちを応援する団体「ミンナソラノシタ」と出会いました。福島からの園児の受け入れ(幼稚園留学)を検討する中で、そのメンバーの中に太陽光パネル設置により小さな自家発電所を作る支援をされている「NPOきょうとグリーンファンド」という市民団体に出会いました。

この出会いは、原子力発電所の事故による放射能への被害や恐れから子どもたちを守りたいという思い、そして神さまが創造された自然を保全したいという思い、園の安全対策を強化したいという思い、環境教育を保育の中に取り込みたいという思いなどの、いくつかの課題が合致するものでした。

たくさんの議論を経て

しかし、設置に至るまでにもっとも困難であったのは、私たち人間の意識であろうと思います。送電線を通して送られてくる電気を買って生活することが当たり前です。どれぐらいの費用がかかるのだろうか、機械の保証はどれくらいだろうか、本当に自然に優しいのだろうか、太陽光パネルはリサイクルできるのだろうかなどなどさまざまな議論が交わされましたし、以前一度は太陽光パネルを検討したときは、そのような問題をクリアにできず断念し、一年ほどの検討期間が与えられることもありました。

けれども、その検討期間が与えられたことで、より多くの支援者と、そして地域の人々を巻き込んで設置することができたことに感謝しております。これに刺激を受けた向かいのお隣さんも自宅に太陽光と蓄電池を備えられました。

工事中の屋根

子どもたちに見えるようになった電気 ~ 環境教育

設置後に驚いたことに、子どもたちが想像以上に太陽光発電に興味を示してくれたことです。子どもたちは、毎日タッチパネルで発電量を確認しながら、おひさまの光で園内の電気がついていることを確認しています。「今日は少ないな」、「今日は多いな」とお天気に発電量が左右されることも知っています。また発電量が多い時は、電気が売られていることも知っています。

そのようにただただ設置するだけではなく、日常の保育の中に環境教育を取り組むということが重要です。設置前には事前に園内で、保育者の環境研修を実施しました。どのようなシステムを導入するのか。保育者が理解して、どのように保育に反映することができるのかを考えるきっかけとなりました。保育の中では、環境の大切さを考えるすごろく、腹話術、聖書のお話しや、地域での自然学習会を通して、改めて周辺にさまざまな植物や動物という神さまが創造された被造物との交わりあることを確認する機会が与えられています。この学びは、「NPOきょうとグリーンファンド」の支援を受けながら、10年間取り組むことになっています。

2021年2月の自然観察会

繋がりをつくる発電所

そして設置後に驚いたこととして、もう一つあげておきたいのは、設置まではあまり声を上げられなかった信徒さんや保護者、地域の方々から地域を巻き込んで設置した発電所に対する喜びの声でした。振り返ってみれば、全国の方々からたくさんのご献金を頂けたのは、皆さんの祈りや思いが込められていた願いだったということを改めて感じさせられました。コロナ禍での設置ではありましたが、見えない神さまの力で人と人が繋がっていく喜びを感じました。

設置後、園児たちとの生活を通して感じることは、太陽光によって私たちの生活に欠かせない電気を得られるというだけにとどまらず、自然との共存を目指す中で神さまが注がれる光は、命を育む光によって、人と人も喜びを生み、新しい可能性を生み出すだろうという期待です。

つまり、おひさま発電所の設置は、ただただ60枚の太陽光パネルを設置しただけにとどまらなかったということなのかもしれません。保育のあり方について、環境に配慮することについて、人と人を分断するのではなく、繋がりを生み出していくことを再度検討しなおすための転換点となっています。

私は人事異動によって聖光教会・幼稚園を離れました。けれども聖光幼稚園は、これから100年目への一歩を踏み出します。その際に神さまが注がれる光、つまりはこの世への「愛」に目を向けながら、新たな生き方への刷新と模索が始まるのだろうと期待しています。

聖光幼稚園おひさまプロジェクト/点灯式に集まった支援者のみなさま
点灯式に集まった支援者のみなさま

聖光幼稚園おひさま発電所点灯式 [ダイジェスト版] YouTube