COP26 英グラスゴー(2021/10/31–11/13)に寄せて 〜アングリカンコミュニオンに連なる私たち〜

今、緊急の課題になっているのは温室効果ガスによる地球温暖化です。温室効果ガスには、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロン類等がありますが、地球温暖化が急速に進む大きな要因として、石油や石炭などの化石燃料の大量消費、森林の大規模破壊や土地利用の変化による二酸化炭素濃度の増加があげられます。

急速な地球温暖化による平均気温や海水温の上昇は、集中豪雨による大規模災害や海面上昇、広範囲にわたる干ばつをもたらし、地球上に住むあらゆるいのちを待ったなしで脅かしています。

南太平洋にあるキリバス共和国やツバル、インド洋のモルディブ共和国、カリブ海のバルバドスなど、海面の上昇によって国の消滅の危機に直面している国も少なくありません。アフリカの南部では最悪の干ばつに見舞われ、生活用水の不足ばかりでなく、農業生産に影響が出て多くの人が食料不足に苦しんでいます。大規模な森林火災に見舞われたオーストラリアでは、野生の動植物のいのちが奪われています。やけどを負ったコアラの救出活動を伝えるニュースに、私たちは大きな衝撃を受けました。また、北極の氷が減少し続け、海上を生活の場としているホッキョクグマのいのちが脅かされています。世界規模で起こっているこのような事象は枚挙にいとまがありません。

このような状況の中、COP26は地球温暖化の原因である温室効果ガスの排出量を世界規模でどれだけ減らすことが出来るのか、そのためにはどのような対策をもって、どのような協力関係を築くのかが大きく問われた会議でもあります。国連は、約120の国と地域の代表や環境学者、環境保護団体、経済界の関係者など25,000人以上が集まった今回の会議を、世界にとってベストで最後のチャンスだと捉えています。また、気候変動の悪影響を回避するためには、今からの10年が大事という意味で「決定的な10年の、最初のCOP」と位置付けられ、世界から大きな関心が寄せられました。

(註)COP 国連気候変動枠組条約締約国会議
気候変動に関する国際連合枠組条約締約国が一堂に会して毎年開催される気候変動会議で、国際的な気候変動に対する政策や具体的な実施計画を協議します。今年は26回目なのでCOP26。

環境正義(Climate Justice、Environmental Justice)

COP26では、環境正義という言葉が頻繁に使われました。先進諸国が原因で気候変動が引き起こされ、被害を受けているのは開発途上国や将来世代の人々です。同じ国の中でも貧困層、先住民が気候変動の影響を受ける割合が高いことも事実です。自然界も多大な被害を被っています。

COP26の期間中に原発やその関連施設、核廃棄物に触れることはほとんどありませんでした。しかし、次世代や開発途上国、過疎地などに対する環境正義を考える時、原発や関連施設の建設、稼働は避けられない問題です。

環境正義は民族や人種、国、地域によって、不公正にもたらされている環境負荷を是正しようとするものです。環境問題の原点に立ち返る時、私たちの生活は誰かの犠牲の上に成り立っていること、何かを破壊することによって成り立っていることを再認識しなければなりません。

COP26とアングリカン・コミュニオン

※このセクション「COP26とアングリカン・コミュニオン」は、 COP26 and the Anglican Communion の一部を翻訳し掲載しています。

オブザーバーとして代表団を派遣することをACC(全聖公会中央協議会)が初めて認定されました。これによって正式な書面の提出や、代表団の参加、政府の代表団との会合を開くなど重要な機会を得ることができ、気候変動に関する意思決定機関に聖公会全体の声や各地での経験を届ける機会になりました。代表団は、若者と先住民を優先して、ケニア、アラスカ、パナマから選ばれました。COP26に参加するにあたり、各代表は次のように述べています。

ケニアからの代表 ニコラス・パンデさん

ケニアからの代表 ニコラス・パンデさん
Nicholas Pande
出典: Anglican Alliance

私の住む地域では、長引く干ばつや洪水、サイクロン、湖や海の水位の上昇、気温上昇による害虫や病気の増加など、気候変動がもたらす壊滅的な影響に悩まされています。これらの悲惨な出来事は、いのちの損失、生活の喪失、インフラの破壊、気候関連の紛争、人口の移動、食糧や栄養の不安をもたらします。私がこの招待を受けたのは、私たちが直面している気候変動の危機に対する若者の懸念と声を届けるためのまたとない機会だと考えたからです。気候変動が若者に与える影響と、それが将来世代にもたらす脅威について、他の国や地域からの代表者や意思決定に携わる人たちと共有できればと思います。

アラスカからの代表 バーナデット・デミエンティフさん

アラスカからの代表 バーナデット・デミエンティフさん
Bernadette Demientieff
出典: Anglican Alliance

気候変動はアラスカに多大な影響を与えています。しかし、私の国のリーダー達は先住民の声に耳を傾けようとせず、石油やガスの開発を推し進めています。そして、動物の生息地を破壊しています。33の沿岸地域が海に浸食され、川や湖では魚が死んでいます。このような状況に声をあげることが大切だと思っています。

将来世代のために、お互いの違いを乗り越えて協力し合わなければなりません。気候変動は肌の色や貧富の差に関わりなく、だれにでも等しく影響を与えます。気候変動を止めることはできませんが、将来世代のために協力をして、備えることはできます。私たちは、霊的にも文化的にも大地や水、動物たちとつながっています。私たちには、被造物を守るという使命が課せられています。

パナマからの代表 フリオ・マレー大主教

パナマからの代表 フリオ・マレー大主教
Archbishop Julio Murray
出典: Anglican Alliance

私たちは、被造物を保全するという使命を負っています。次世代のために天然資源を守るという使命と、地球上のいのちを癒し、回復させるために協力するという義務を負っています。だからこそ、私たち、聖公会に連なる者は教育や文化的変革のための行動に参加することを強く求められているのです。

COP26で決まった主なこと

COP26は、合意事項の内容をまとめた「グラスゴー気候協定」を採択して11月13日に閉幕しました。先ず、「パリ協定」では努力目標に過ぎなかった気温の上昇を1.5℃までに抑えることが共通目標として明記されました。次に、世界の温室効果ガスの排出量を2030年までに2010年の排出量と較べ45%削減し、2050年までにゼロにする必要があると明記されました。更に、国別削減目標の更新期限を当初予定の2025年より3年早い2022年末までに繰り上げ、各国に対し30年目標達成のための再検討を要請しました。また、最終合意文書には石炭などの化石燃料の規制が初めて明記されました。また、パリ協定のルールブックが完結されたことも成果の一つと言えます。温室効果ガス削減のための途上国への経済支援も盛り込まれました。

原発に関連する話題がほとんどなかったことは大変残念なことです。二酸化炭素排出量を抑制するために原発の活用は不可欠だとの認識が高まる傾向にあり、原発の再稼働や原発や関連施設の建設を進めようとする国があります。しかし、原発の発電そのものにおいては排出しませんが、例えば、建設時や運転時、ウラン鉱石からウランを取り出す過程で排出されます。また、使用済み核燃料は数万年に亘り自然環境から隔離し続けなければなりませんが、その施設の建設から維持・管理にも二酸化炭素は排出されます。

 2019年5月に開催された「原発のない世界を求める国際協議会」の基調講演で、講師のミランダ・シュラーズ博士は「脱原発と脱炭素は同時に行うべきです」と述べています。

脱原発を目ざすことは経済の縮小につながるとの意見もありますが、これに対し、ミランダ博士は「脱原発、脱炭素、再生可能エネルギーの推進は経済的なチャンス、ビジネスチャンスになり得ます」と述べています。

若者の声に聴く

会場の外では連日たくさんの若者が集まり、気候変動対策の強化を求めてデモ行進が行われました。グラスゴー以外でも、100か国それぞれの場所で若者がデモ行進をしたり、集会を開いたりと抗議活動を展開しました。日本でも10の都道府県で若者が集まり、気候変動の悪影響を訴え、COP26の合意事項を実践するよう切実な声をあげました。私たちは、この人たちの声を聴く義務と責任を負っています。

私たちの役割

あるアングリカン・コミュニオンからの参加者は、「グラスゴー後(after Glasgow)が大事」と述べています。緊急に取り組まなければならない気候危機回避への道。それは、それぞれの国と地域、そして私たち一人ひとりにかかっています。

COP26で合意されたことを本気で守ることが喫緊の課題です。そして、そのために政治や経済、生活のあり方を見直し、転換することが求められています。ACCの代表団に同行したエリザベス・ペリー博士は、アングリカン・コミュニオンに連なる私たちは、宣教の5指標の被造物の保全に努めることの大切さを述べています。将来世代の人たちに、どのような世界を引き継いで貰うのか、環境正義をどう実現するのか、COP26は重要な節目になった会議とも言えるのではないでしょうか。

気候変動を変える具体的な取り組みとして

イギリスのBBCニュースでは、気候変動に歯止めをかけるための7つの方法(Seven ways to curb climate change)を提案しています。

  1. 化石燃料はそのまま地中に残す
  2. メタン排出を減らす
  3. 再生可能エネルギーに切り替える
  4. ガソリンやディーゼルの使用をやめる
  5. 植林を促進する
  6. 大気から温室効果ガスを取り除く
  7. 貧しい国へ経済支援

私たちの日常を振り返り知恵を出し合えば、上記7つ以外に、例えば各家庭での電気消費量を減らすなど、それぞれに出来ることがあるかも知れません。

最後に、気候変動や原発の問題を考える上で、私たちに教訓を与えてくれる言葉をご紹介します。
これらは、今のような開発が進む以前から語り継がれているものです。

アメリカ先住民のことわざ

「最後の木が枯れ、川が汚染され、最後の魚が釣り上げられてはじめて、人間はお金を食べることができないことに気がつくものだ。」

「地球はあなたの両親からあなたへと与えられたものではない。あなたの子どもがあなたに貸し出したものだ。人は祖先から地球を継承するのではない。子供たちから借りているのだ。」

(アメリカ先住民から学ぶ「10の教訓」 TABILABO より引用)

(文責:原発問題プロジェクト委員 池住圭)