世界の青年たちと東日本大震災を憶える USPG主催プログラムを受け入れて

USPG(United Society Partners in the Gospel)の主催するリーダーシップトレーニングが、7月3日から23日まで栃木県那須塩原市にあるアジア学院を会場にして行われ、世界中から聖公会の青年たち9名が参加しました。国別では、イギリス(2人)、パプアニューギニア、バングラデッシュ、ブラジル(3人)、パレスチナ(途中で帰国)そして日本でした。

※USPGの起源は、1701年に設立されたイギリス海外福音伝道協会 (SPG)です。

レクチャーを聞いたメンバーたち

依頼を受けた私は、7月12日、アジア学院におじゃまして参加者たちに東日本大震災についてレクチャーしました。大地震の脅威と巨大津波の破壊力と東京電力福島第一原子力発電所爆発事故によるこの世のものとは思えない放射能被害の実態、大震災直後に岩手県・宮城県・福島県から全国に避難された約41万人のご苦労、それから13年4カ月後の現況等をスライドと、直前に本屋で購入した福島県地図と東北地図を広げながら、青年たちが想像できているかを随時求めながら説明しました。青年たちは熱心に耳を傾けて、時に目頭を赤くし、時に暗い顔をして痛みや怒り、悲しみ、口惜しさの感情を表していました。その彼らの感受性に接して私は不思議と救われた思いで一筋の光を見ていました。

「日本聖公会東日本大震災被災者支援いっしょに歩こう!プロジェクト 2年間の歩み(2014.3月発行)」、「希望の種 いっしょに歩こう!プロジェクト外国人被災者支援報告書 英語版(2013.9月)」「原発に関する特別問題プロジェクトいっしょに歩こう!プロジェクト・パートⅡ 原発のない世界を求めて 3年間の歩み(2016.11月)」、の3冊の報告書をお渡しして記念品にしました。研修を終えても思い出しては自国で読んでほしいと願いました。


翌13日は、青年たち7名とUSPGの引率者とアジア学院の担当者、そして私の10名が、朝から中型貸切バスに同乗しての福島フィールドワークでした。私が福島原発の近くまで行くのは実に8年ぶりになります。バスは東北自動車道矢吹ICから新設中のあぶくま高原道路を走り、小野町~川内村~通れるようになっている富岡町夜の森公園を通過して国道6号線に入りました。そこから北上するのですが、車中から未だに倒れたままの家屋や立入禁止の看板や、積み上げられて年月が経つフレコンバック群、そして大熊町で原発内に何本も立つ大型クレーンを目撃しました。

そうして、私は初めてとなる震災遺構浪江町立請戸小学校に立ち寄りましたが、そこに着くまでの広い土地には、真新しい巨大な建物がいくつも並んでいました。外にまったく人が一人もいないのに、立派な建造物はまるで石の建物で空虚に映りましたから、私は写真を撮る気にもなれませんでした。

震災遺構浪江町立請戸小学校
請戸小学校非常階段に設置された津波高の看板、向こうが太平洋
生徒たちの靴箱
体育館に取り付けられている看板

請戸小学校内で英語のガイド書を読みながら、さび付いた建物内を1時間ほど見学しました。日頃の避難訓練や津波に対する危機意識の重要性を教えられ、また避難している人たち同士の助け合いが奇跡を生んだ事実を知って、衝撃と感動を受けたと話す青年がいました。とても強いインパクトがあったようです。

さらに北上して新地町の祈りの庭を訪れ、さっそく信徒の三宅信一さんから大震災後の教会再建の苦労話を約15分聞きました。再建に障害が多く停滞し悩んだり、たとえ再建が叶っても3年後5年後にどうなっているか分からないとたじろいだりしたこと、しかし加藤博道主教に、今したいことをしなさいと促された言葉で前を向けた経験が語られ、青年たちを勇気づけたようです。

祈りの庭での聖餐式説教
祈りの庭にて、磯山聖ヨハネ教会信徒の皆さんとご一緒に

聖餐式を献げてから、一人ひとりが鎮魂の鐘を打ち、大震災のすべての犠牲者の平安を祈りました。その後新しい磯山聖ヨハネ教会に招かれて、新地町オリジナルのイチジクアイスクリームをほおばりながら、親しく信徒との語らいの時を持ちました。若者たちがそこにいるだけで教会が明るくなりました。この日宿泊する仙台基督教会近くのホテルまで案内して、私はお別れを告げました。

14日、青年たちは仙台基督教会で主日聖餐式に出席し、午後帰路に着き無事帰着したと知らせをもらって、私の今回のミッションは完了しました。


青年たちが、東日本大震災のレクチャーと福島フィールドワークによるこの貴重な体験が今後の信仰に肉付けされますように、また地球上のすべての命の尊さを忘れずにいてほしいと願い祈ります。私自身もこのような出会いと触れ合いを経験させてもらい有難く、感謝でした。

(文責:日本聖公会正義と平和委員会原発問題プロジェクト長
主教 長谷川清純)