「明日のハナコ」はなぜ放送されなかったのか?〜メディアによる報道のされ方の違いを知る〜
先日2つの異なる新聞社が同じ題材を取り上げた記事を読みました。ひとつは福井新聞オンライン版(11月17日)で、もう一つは朝日新聞大阪版(11月28日朝刊)の社会面に取り上げられた記事でした。福井県の高校演劇祭に参加した12の高校のうち、福井農林高校演劇部の上演作品だけが、地元の福井ケーブルテレビの番組で放送されなかったことが書かれていました。2つの記事からわかる出来事の内容は以下の通りです。
福井農林高校が上演した作品は、1948年の福井地震以降多くの原発が建設されるに至った福井県での出来事、また福島原子力発電所事故にも触れた作品でした。その作品の劇中に過去に問題となった敦賀市長(当時)の言葉が紹介されていました。それについて「作品中に差別表現がふくまれているが問題ないか」とケーブルテレビ側から問い合わせがあり、福井県高校文化連盟演劇部会で対応を協議しました。その結果が、農林高校の作品はテレビで放送しないということでした。また、上演のDVD化もしない。例年行っている脚本集の配布もしないということになりました。
この劇の台本を書いたのは農林高校演劇部の元顧問の先生です。問題となった部分に関して、原発を巡る実際の発言を批判的にとりあげていて、差別意識はないと反論しています。逆に、表現の自由を奪わないでほしいと、県内の演劇関係者や日本劇作家協会の仲間たちと今回の決定の撤回を求めて署名活動を始めています。
福井農林高校演劇部の上演作品の題名は「明日のハナコ」といいます。
福井新聞と朝日新聞(大阪版)の読み比べ
福井市に2011年4月から2019年3月まで住んでいた経験から、今回2つの記事を読んでみて、思うところがありました。
私は福井市にある福井聖三一教会の牧師、聖三一幼稚園のチャプレンをしていて、ある時、毎年の福井県書初め競書大会の特別協賛に(公財)げんでんふれあい福井財団が入っていることを知りました。園の卒園生たちの活躍を知る上で、入賞した卒園生たちの名前が、正月の福井新聞に載っているのを楽しみに探していた園長先生の笑顔をいつも思い出します。入賞者の名前が、福井新聞に載るんですね。それだけ、文化面でもメディアの影響は大きく、またそこに原発関連会社の影響が強く働いていることを感じて生活しておりました。
今回の記事は、福井新聞のタイトルが「作中に差別用語…広がる波紋」、そして朝日新聞(大阪版)は「原発題材の劇放送せず」です。
福井農林高校が問題提起をしたかったのは、差別用語ではなく、原発についてです。今回の新聞記事の中で、敦賀市長の発言内容について触れている朝日新聞と触れていない福井新聞とでも大きく取り上げ方の違いが分かります。地元、そして原発関連会社のスポンサーとしての影響力は記事の取り上げ方にも影響を及ぼします。
逆に言えば、地元だから言えないことも、利害関係の薄い者であれば取り上げやすということです。今回福井農林高校の先生が、思い切った脚本を書かれたこと、また原発立地住民のことを思い浮かべる上でも、記事の読み比べは重要な手がかりとなったように思います。
(文責:小林聡〔大阪市在住、聖贖主教会牧師〕)
※ 新聞で取り上げられた福井農林高校演劇部の上演作品「明日のハナコ」については、福井の高校演劇から表現の自由を失わせないための「明日のハナコ」上演実行委員会が結成され、ウェブサイトが開設されています。
「福井の高校演劇から表現の自由を失わせないための『明日のハナコ』上演実行委員会」ウェブサイト:https://ashitanohanako1108.wixsite.com/home