『原告団NEWS No.4』より 2人の信仰者の言葉

宗教者核燃裁判の原告団の第2回口頭弁論期日が2021年4月8日、東京地裁で開かれました。

その場で証言された片岡輝美さん(日本基督教団 若松栄町教会会員)の準備書面(福島第一原発事故の被害及び本訴訟を提起した経緯)が、宗教者核燃裁判原告団 東京事務所発行の『原告団NEWS No.4』に掲載されています。片岡さんは、5月30日から開かれたオンラインフォーラム「原発はやめようよ」の公開講演会の講師もしてくださいました。

※片岡さんの詳細なプロフィールは「原発のない世界を求める週間」ページをご覧ください。

また、同じく原告のお一人である池住義憲さん(日本聖公会 名古屋聖ステパノ教会信徒)のリレー随想「原告の思い」は、ともに、宗教者・信仰者としての立ち位置を学ばせていただくものです。

お二人の思いに私たちの思いを重ね合わせつつ、原発のない世界を求め続けていきたいと思います。

以下、発行元の許可を得て転載します。

宗教者が核燃料サイクル事業廃止を求める裁判
第2回口頭弁論 準備書面2

原告 片岡輝美 

旧約聖書出エジプト記第20章には、神がモーセとイスラエルの民に命じた十の戒めが記されています。その最後は「あなたは隣人の家を貪ってはならない。隣人の妻、奴隷、牛、ロバ、またすべて隣人のものを貪ってはならない」と戒めています。貪るとは、自分が持っているものは十分に満たされているのに、己の欲によって、他者のものを奪うこと。人間の底知れない欲望を神は知り尽くしているからこそ、十戒の最後にこの戒めを与えたのだと、私は考えます。

これは現代を生きる私達にも告げられている戒めです。潤沢な電力会社が資金力に物を言わせて、過疎地域に住む人々から土地や財産を奪い、原子力発電所や核燃料再処理工場を建てました。これはまさに、力ある者の貪りです。しかし、これに対して、「財産を手放した代償は十分だったのではないか」との反論もあります。ですが、その末路は東京電力福島第一原子力発電所核事故となって、代償を受けた、受けないに拘わらず、あらゆる人に甚大な被害が及ぶという事実となり、今、私たちに突き付けられています。

2011年3月、私は末息子と妹、そして妹の子ども2人を連れて、福島県会津若松市から三重県鈴鹿市の親戚宅に避難しました。老朽化した福島第一原発の爆発に恐怖を感じたからです。しかし避難先で、キリスト者でありながら、大切な人々を置いてきてしまった自分を責め続けました。同年3月末、自宅に戻り、放射能から子どものいのちを守る会を立ち上げ、今も活動を続けています。この10年間、一日、一瞬たりとも福島原発核事故を忘れたことはありません。

2013年7月、夫が勤める日本キリスト教団若松栄町教会の庭にある滑り台の下から、1キロあたり約4500ベクレルの土壌汚染が測定されました。この数値に一般的な方法で係数65を掛けて㎡あたりに換算すると、29万ベクレルとなり、放射線管理区域基準の4万ベクレル/㎡を遥かに超える数値になります。雨や雪が流れ落ち、乾き、濃縮を繰り返すことで、線量が高くなっていたのです。キロあたり4500ベクレルは毎秒4500本の放射線が飛び出していることになり、子どもが足を着いた途端、それほどの被ばくをするのです。

35年に亘り運営された教会付属保育園の子どもたちも、私の4人の息子も、この滑り台で遊びました。自分で滑れるようになった喜び、お友だちと遊ぶ楽しさ、順番を守らないでケンカになっても仲直りしてルールを学ぶことなど、極日常の、でも、本当に幸せな幾つもの場面がここにありました。なんとかして滑り台を残したく、汚染土の除去などを試みましたが、線量の低下は望めず、滑り台があることで子どもがそばに近寄ることを防ぐために、撤去するほかにありませんでした。

そのことを知った息子たちは「そうやって原発核事故は僕たちの思い出も、今、成長している子どもが楽しく遊ぶという当たり前の日常も、奪っていくんだ」と悔しがりました。事故は、私たちが安心して生きる権利を奪いました。その権利を奪った原子力法制は、基本的人権の尊重を原則とする日本国憲法に違反しています。

福島原発核事故が生み出したのは、全てのいのちを脅かす危機的被害です。そして、六ヶ所核燃料再処理工場が生み出す高レベル放射性の廃液や死の灰も、到底人間の手には負えない核のゴミです。原発に絶対的な安全性がないことを、福島原発核事故が証明した今、再処理工場にも絶対的な安全性は全くありません。

私は子どもの育つ環境が放射能により汚染されてしまったことに大きな苦しみを感じ、その上、再処理工場の稼働や事故により、未来のいのちを滅びの道に引きずりこむかもしれない危険性を、次世代に渡すことに耐えられません。私は未来のいのちを脅かす加害者になりたくありません。そして、何よりも福島原発の過酷事故を経験しても、核燃料サイクル事業を手放さないことは、この時代の富を享受している者たちが、未来世代のいのちを貪っている愚かな行為に他なりません。

この社会は、今を生きる私達だけで作っているのではありません。この社会に生きる人々に、そして特に宗教者信仰者には、神から与えられ、そして前の世代から受け継いだいのちを誠実に生き、次世代につないでいく義務と責任があります。そして、それを履行し実現するための権利「命をつなぐ権利」があります。今が、安心して生きられる社会でなければ、未来が安心して生きられる社会になるはずはない…これは自明の理です。

私が信じる神は、私のいのちだけでなく、核燃料サイクル事業を推進し従事する人々のいのちも、核災害によって蔑ろにされることを望んでいません。なぜなら、どのいのちも神の目には等しく尊いものだからです。核といのちは共存できない…このことを、本裁判の原告239名の信仰を賭けた訴えであることを述べて終わります。

以上

宗教者核燃NEWS第4号『リレー随想』

2021年4月11日 
第二次原告 池住義憲 

事故は起こる。起こったら他のどんなエネルギーより危険で、取り返しがつかない。原子力より安全なエネルギー源が存在する。この三つは、ドイツが脱原発に舵を切った主な理由。2015年11月ドイツを訪問した時、ドイツ脱原発倫理委員会委員から、直接聞いた。

311直後の2011年4月にメルケル首相が設置した倫理委員会は、原子力エネルギーの利用から撤退する、と結論。報告書を受け取ったメルケル首相は、全ての原発稼働停止を閣議決定し、原子力法を改正した。これにかかるインフラ整備等のコストは、「次世代への投資」、国全体の経済発展を刺激する大きな要因となる、とした。一時的に国民の負担が増えても、次世代のことを考えて、舵を切った。

「次世代への投資」「次世代のことを考えて舵を切る」。そう、その通り。目先の、現世代の経済利益や損失で、判断しない。次世代の人たちの生存といのちを、視座の中心に置く。今を生きる私(たち)は、その価値観を大切にして生きる・・・。

この時、私は確信した。必要なのは、「ジャストピース」(Justpeace)。自分たち地域だけの公正・正義でない。他の地域、他の社会、他国の公正・正義を含む。その「ジャスト」と「ピース(平和)」の二語を組み合わせた言葉がジャストピース(公正・正義に基づいた平和)。

途上国の飢餓人口を拡大させ、途上国の生物多様性と環境を破壊させて成り立っている私たちの経済繁栄と豊かさは、ジャストピースと言わない。ある人・ある地域を犠牲にして成り立っている平和は、ジャストピースではない。

同様に、他者を傷つけて成り立つ安全、未来世代のいのちを脅かして得る繁栄と安全は、「ジャストセーフティ」(Justsafety、公正にもとづいた安全)ではない。

最終処分方法や処分地の目途も全く立っていない六ケ所村再処理工場。その工場運転から出される高レベル放射性廃棄物は、ただただ、後世に先送りする。それで得ようとする今の安全(セーフティ)は、ジャストセーフティではない。

今を生きる私たちの命も、未来に生きる人たちの命も、重さ・尊さは同じ。この視点・考え方は、私が36年間のNGO活動とその後の大学教員研究で学んだ大切な価値観です。私の生き方の基盤、信仰の基盤です。

まだ見ぬ未来の人たちの苦しみ・痛み・不安・恐怖に、無関心・無感動で居られる人間ではない。私は、世代を超えて、他者の苦痛を自分の苦痛と感じる、感じ取ろうとする人間です。私の「いのちをつなぐ権利」は、誰からも侵害されたくない。私が原告に加わった理由です。

宗教者核燃裁判について

宗教者核燃裁判は正式名「宗教者が核燃料サイクル事業廃止を求める裁判」の略称です。

1993年7月に発足した「原子力行政を問い直す宗教者の会」を母体として全国各地からの各教団宗派の僧侶、牧師、司祭、信徒、サポーター(賛同人)で構成される原告団が、青森県六ヶ所村の原子力施設(再処理工場など)の運転差止を求めて東京地裁に提訴しているものです。2021年5月1日時点における原告数は247名となっています。日本聖公会や原発問題プロジェクトとその委員も複数原告として加わっています。

提訴を決断した理由は第一に、「宗教者・信仰者として『核といのちは共存できない』と訴える」ということがあります。そして、「核燃料サイクル事業は『倫理に反している』と訴える」必要があります。その思いのもとにこうした訴えを起こすことが宗派・教派を超えて宗教者・信仰者の使命を果たすことと考えているのです。

原告申し込み、その他の詳細は 公式サイトhttps://www.kakunensaiban.tokyo/ をご覧ください。

※オリジナルの『原告団NEWS No.4』は以下のリンクよりご覧ください。(原告団のウェブサイトへ移動します)