「宗教者核燃裁判」5回目の口頭弁論を振り返る(2)


宗教者核燃裁判は「宗教者が核燃料サイクル事業廃止を求める裁判」の略です。
日本各地に住む宗教者・信仰者が原告となり、日本原燃株式会社に対して六カ所村再処理工場運転の差し止めの請求を東京地裁に訴えています。私たち原発問題プロジェクトの委員もこの裁判の原告団に加わっています。

2022年12月20日(火)、東京地裁での第113号法廷という部屋で宗教者核燃裁判の第5回目の口頭弁論期日があり、その後に港区にある日本聖公会聖アンデレ教会ホールで集会が開かれました。

前回「宗教者核燃裁判」5回目の口頭弁論を振り返る(1)は、宗教者核燃裁判が実際はどんなことを訴えているのか、今どのような状況にあるのか、についてお伝えしました。

宗教者核燃裁判は、全国の僧侶や司祭/牧師、信徒や門徒などが原告になっています。
今回は、そもそもなぜ?宗教者がこの裁判の原告となるのかについて、お伝えできればと思います。

宗教者が原告となること

この裁判では原発の問題を、経済やエネルギーの問題ではなく、「いのち」の問題、「倫理」の問題として考えています。

国の原子力政策は、「夢のエネルギー」と謳いながら、最初から人口が少なく、過疎に苦しむ都会から離れた地域に原発を建てることで、地域の暮らしや文化の破壊、分断を強いてきました。六ヶ所村の核燃料サイクル施設や、核のゴミの最終処分場にも同じことが言えます。誰かの犠牲を前提とした、構造的差別がそこにあります。

また、被曝労働の問題からも目を逸らすことはできません。宗教者核燃裁判の原告の一人、真宗大谷派の長田浩昭住職は2022年に開かれたオンラインセミナー(※1)の中で、原発の被曝労働者の総数は、2021年3月時点で69万6,427人に上る(*公益財団法人放射線影響協会)と語っています。原爆による広島、長崎の被爆者は現在十数万人と言われています。いかに多くの労働者が被曝を強いられ、健康やいのちが脅かされているかがわかります。

さらに、原発は核兵器に直結する軍事の問題となり得ます。核兵器を使用しなくても事故による取り返しのつかない放射能汚染と健康への被害、収束の目処が立たない事故処理、放射能汚染水の海洋投棄、行き場所のない核のゴミなど、今を生きる者たちは、未来に生きなければならない者たちへの加害者となります。

日本聖公会は1996年、戦後50年を経て、アジア・太平洋戦争について戦争責任に関する宣言を出しました(※2)。それは、誤った国策に迎合してしまったこと、神の国の平和のために声をあげ行動することができなかったこと、つまり、主の福音が示す 「地の塩」としての役割を果たすことができなかったことへの反省です。2012年には、東京電力福島第一原子力発電所事故の取り返しのつかない被害を目の当たりにし、深い反省と、日本聖公会が原発のない世界を求める立場に立つことを表明しました(※2)

(※2) クリックすると別タブでPDFファイルを表示します

宗教者が原告になることは、過去の世代に学び、未来の世代へと繋ぐため、いのちの問題に対して黙らないこと、神様に造られた全てのいのちが共生する世界を求めることに繋がっています。

なぜ、六カ所村再処理工場の運転差し止めを訴えるのか?

六カ所村の再処理工場は、日本が夢見た原子力政策の2本の柱のうちの1つでした。原発からでたゴミ(使用済み燃料)を再処理してMOX燃料というものに作り替えれば、もう1つの柱である高速増殖炉「もんじゅ」によって永久に燃料が増殖して続ける、そうすれば資源の少ない日本で永久的な燃料サイクルができるという夢でした。「もんじゅ」は、一度も運転することすらできず廃炉と決まりました。日本よりも技術が高いとされている国のフランスでさえも高速増殖炉の研究は失敗しました。

ちなみに、会計検査院の調べによると、「もんじゅ」の研究や開発のために少なくとも1兆1,313億円の経費がかかっていることが分かりました。これには、廃炉費用は含まれていません。

六カ所村核燃料再処理施設は26回も完工を延期し、それでも完成に近づくことができないといわれている施設です。運転が開始されていない現在でも、再処理工場では私たちが思う以上にトラブルが頻繁に発生しています。(※3)

保管している使用済み核燃料に異常をきたした場合、大災害が起きないとも限りません。最悪の場合、福島第一原子力発電所事故よりも大量の放射性物質を撒き散らすことになります。(※4)

再処理された後に残る高レベル放射性廃棄物の行き場もありません。現在青森県には中間貯蔵施設がありますが、県は最終処分場にはしないという条件のもとに受け入れています。最終処分場をめぐっては、北海道の寿都町や神恵内村が文献調査に名乗りをあげましたが、賛否二分で住民が分断されています。核のゴミの問題は日本全体の問題です。(※5)

(※5)

あなたも宗教者核燃裁判を応援しませんか?

日本聖公会正義と平和委員会原発問題プロジェクトは、宗教者核燃裁判に連帯しています。
一人でも多くの聖職・信徒の皆様にこの裁判に関心を寄せていただけるよう、発信を続けます。

この裁判の趣旨に賛同してくださる方は、サポーター登録ができます。また、当事者となってこの裁判の原告団に加わってくださる方も求めています。2022年12月現在で246名の原告が集まっています。

また、一人でも多くの方が裁判の傍聴に来てほしいと宗教者核燃裁判の事務局はお願いしています。原告やサポーターに限らず、傍聴人が多ければ、それだけ多くの人がこの裁判に関心があるということを示せるからです。