東京教区 第147(定期)教区会 開会演説
2025年11月22日(土)
主教 フランシスコ・ザビエル 髙橋 宏幸
本日は、東京教区第147(定期)教区会に、主日前日お集りいただきました議員、関係者の皆さま、教区会書記局、教区事務所、会場準備をしてくださった方がたに深く感謝と御礼を申し上げます。
私たちはキリストの弟子として召され、教会問答にも「神の民」と明記されていますように、神様の声、イエス様の声に心と耳を傾け、聖霊の導きを祈り求める神の民です。教会会議は、世俗の会議体とは異なります。皆さまのご協力をお願いいたします。本日は、2026年度の活動計画と予算が主なるものですが、歴史的重要性を持つと言っても過言ではない議案もありますので、真摯に取り組んでまいりたく思います。
前教区会前には、大石忠さんより「合理的配慮」の話を伺い、学び始めましたが、その学びやプログラムは継続しています。この学びを重ねている教会もあり、「合理的配慮」は突き詰めれば教会論に辿り着くテーマであると伺ってもいます。また、教役者、日曜学校など子どもに関わる方がた、教会委員の方がた、青年を対象とした「セーフチャーチ・ガイドライン」研修会も重ねていただいています。本日、皆さまの机の上には「セーフチャーチ:始め方ガイド」を置きました。日本聖公会では、「日本聖公会セーフチャーチ・ガイドライン」が2026年の定期総会で決議されるよう準備が進められています。お手元の「セーフチャーチ:始め方ガイド」は、アングリカン・コミュニオンのセーフチャーチ委員会(ACSCC)が2023年に公開した資料を翻訳したものです。セーフチャーチの考え方や活動について理解を深めるための補助資料として目を通され、活用してくださるようお願いいたします。
日本は豊かな国であると言われながらも、子どもたち、そして大人たちの中にも貧困、虐待、イジメなど少なくありません。殊に「なぜ、未来ある子どもたち、そして今を一緒に生かされている子どもたちが一部の大人たちの私利私欲の犠牲に?」と戸惑い、怒りを覚えたり心を痛めたりしながらも、当事者意識、想像力を持ち、イエス様のなさることに倣い、為すべきことを教え示してくださいと祈り続けます。同時に、子どもたちだけではなく、神様から命の息を吹き込まれている、その同じ人間によって息をできなくさせられている人びとがいます。妬みや非難は自分が作り出した心ですが、互いを思いやる心は神様からの賜物です。その賜物を用いて、息をできなくさせられている人びとが息を取り戻すことができるよう仕える信仰共同体として成長していくこと、本来神様は、全ての人に神様の息を吹き込まれ生きるようにされたという視点を大切にできる信仰共同体に私たちがなりますようにと祈ります。
北関東教区との宣教協働・新教区設立に向けて、「東京教区・北関東教区宣教協働特別委員会」委員長の鈴木伸明司祭がご葬儀のためお出でになれませんので、副委員長の中川英樹司祭からお話しいただくことになっています。私たちは常に主と共に歩み続ける信仰共同体、神の民、キリストの弟子たちとして成長し続け(Becoming)たいと祈ります。自分(たち)内々での完璧、完成だけを追い求める時、その先には自己満足、自己完結が待ち受けている危険や、歩みが止まるという落とし穴に注意したいと思います。キリストの教会は、常に同伴者なるイエス様とともに、未来を創り続ける主の器として歩み続けるキリストの弟子集団です。
今を遡ること1971年開催の日本聖公会第31(定期)総会で「日本聖公会教区制問題研究委員会」が設置され検討を重ね、1974年第33(定期)総会に委員会報告がなされています。その中、「宣教理念、教会の体質改善」という本質的なことが指摘されましたが、既に半世紀以上の時が経過しました。私たちはキリストの弟子として召され、用いられています。授けられている使命を実践するためには、絶えずみ声を聴き、祈りと学びをともにし、神様に仕える道を選び取る決断を進めねばなりません。同時に、その「和と輪」が広がっていくことを祈ります。
私たちキリストの教会は、歴史における出来事に責任を持つ教会、キリストの弟子として成長する教会へと歩み続ける務めがあります。古い伝統は新しい伝統を生み、新しい伝統は古い伝統を活かすという精神を大切にしつつ、交わりの内に、これまで見えていなかったものが見えてくる、祈る相手や祈ってくれる仲間が増えていく、北関東教区との宣教協働・新教区設立はその働きでもあるとともに、二教区間だけの事柄で完結するものではなく、日本聖公会が先に進むことと深く関わる働きでもあります。今後の日本聖公会にとっても重要な議案が後程審議されます。
私たちキリストの教会は、この世の権威の象徴ではなく、神様の権威の象徴にならなければなりません。壁を作るだけで橋を架けない教会にはならないために、いのちを愛でる教会に、人を幸せにするために祈りに生き、祈りに生かされる信仰共同体に成長していかれるよう聖霊の導きを祈り続けます。いのちを支え合ってこそのミッションであり、キリストの教会は希望と癒しを見出すためにこの世に存在し、仕え続けねばなりません。停滞、マンネリ化しないためには、新しい扉を開かなければならないでしょう。
いまだにコロナの完全収束が見られない中、また暴力が支配している世界、先が見えない社会に在って「如何に希望を?」ということを宣教の柱の一つにしたいと思います。イエス様の復活を記した有名な「エマオ途上」の出来事では、不安と絶望の中での弟子たちの逃避行でしたが、そこにそっと近づき、寄り添われ、歩みを共にされるキリストが、私たちにもいらっしゃいます。あの出来事は時代や場所、状況の違いこそあるものの、今の私たちに重なるところがあります。不安の中にあっても、必ずキリストが共に歩まれるのです。人びととの出会いによっていのちを回復する希望と、そこに関わり続けてくださるイエス様に仕え続けたく思います。そのためにも、聖霊が何を語り続けてくださっているかを聴くことから教会の在り方を問い続けたいものです。共に歩むとはキリストの歩み方であり、現代社会に不可欠なことであり、キリストの教会は一緒に歩むことによって希望を生み出すものに成長させられます。キリストの愛によってともに歩むことを、絶望を打ち破り、希望を生み出す原動力にしていきたいものです。そのために、授かっている教会の底力、原点に心を向け、立ち返ることも大切にしたいと思います。私たちキリストの教会は、神様の愛と恵みに生かされるサクラメンタルな共同体です。
前教区会でも申し上げましたが、今年は「戦後80年」の年です。日本聖公会の諸々の働きは、戦後80年を軸に行われてきました。私たち東京教区においても、過去の悲惨な出来事を過去に閉じ込めるのではなく、「平和を実現する人々は、幸いである、その人たちは神の子と呼ばれる」とのイエス様の御言に仕える祈り人、働き人となるべく聖霊の導きを祈り続けます。また、依然として「宗教は恐ろしいもの」という世論がある中、私たちが宣教の使命に取り組む際、真に自由な宗教教団・信仰共同体として宗教法人、公益法人としての管区や教区、また教会・礼拝堂の在り方に留意する必要があります。
聖職養成に関しては、現在、聖公会神学院一年次に聖職候補生一名が在学中、また「見守り(同伴)プログラム」を終えられた方が一人、他に三人がプログラム途上に、さらに一人の方から聖職候補生志願が出されております。約一年に及ぶこのプログラムにおいて、複数の同伴メンバーとの祈りとやり取りを通して召命への識別をしていただいていますので、皆さまのご加祷をお願いいたします。
日本聖公会では、先に「202230」という、教会の意思決定機関に30パーセントの女性参画を目指す動きが始まりましたが、この度「203040」という、2030年には40パーセントを目指していますことを覚え、また大切にしたいと思います。
最後になりますが、先般CCA主催「アジアにおける強制移住、人身売買、サイバー犯罪の増加との闘いに関する国際会議」に林汶慶執事を、USPG・北インド教会ドゥルガプル教区共催「人身売買と現代の奴隷制に関する会議」にはトーマス・アッシュさん(聖オルバン教会)を派遣しました。11月30日「人権活動を支える主日」夜、日本聖公会全体でZoomでの報告会が予定されています。お心に留めていただきたいと思います。
新しい歩みを培っていく東京教区の上に、そして本教区会の上に主の祝福と聖霊の導きが豊かに注がれますことを祈ります。御清聴有難うございました。
【聖公会の宣教の5指標】
神の国のよき知らせを宣言すること
新しい信徒を教え、洗礼を授け、養うこと
愛の奉仕によって人々の必要に応答すること
社会の不正な構造を改革し、あらゆる暴力に反対し、平和と和解を追求すること
被造物の本来の姿を守り、地球上の生命を維持・再生するため努力すること

